牙を剥いて巨きな竜が唸るような、そんな音が空に満ちている。
分厚い豪奢なカーテンが引かれているために外の様子は見られない。
しかしその隙間からは明滅する激しい青光とその空でのた打ち回って遊び竜の咆哮が、腹の底まで響くようにもれるために、大気の様子は容易に知れた。
時ひどい雨と、雷だ、
天を裂いて竜が暴れているのに違いない。
しかしカーテンを引かれたままなので、彼はその翡翠の目玉に曇天を光が走るさまを思い描くことで、満足しようとしていた。その分厚いカーテンを開けるわけにはいかなかったのだ。
実を言うと彼は、雷が雲々の峰を真下へ貫くのを眺めるのが好きだった。
ほんの少し怖くはあったが、それを見るのはゾクゾクと足元から這い上る楽しさを持っていた。引き込まれるような、高揚感。
しかし今彼は窓越しにそれを眺めてわくわくした気持ちを味わうわけにはいかなかった。
この部屋にいたのは彼だけではなかったので。雷の怖い誰かさんが、クッション抱えて膝を丸めてソファの隅で小さく丸く丸くなっていた。モンスターだって騎士団だって、王様だってへっちゃらなくせに、彼女は雷だけが駄目だった。ほんの少しでもゴロッというだけで、彼女は空をそのまま移す屋根を持つ温室から半泣きになって飛び出してくるのだ。
「こんな恐ろしい音楽聴いていられない。」
青い光が明滅している。だんだんと遠ざかる雷鳴が低く響いている。
第三音素の暴走。これはなんという音楽だろうか。にはその旋律が聴こえるのだろうか。
おずおずとルークはの頭に手をやろうとした。ガイがよくやる見たくポンポンと撫でてやろうと思って。しかしその簡単に見える優しい動作は思ったよりも難しく、照れくさい。
なんだか恥ずかしいような格好が悪いような気がして、伸ばした指先がじりじりしている。
(ああ、もうちっくしょう!)
あんまりじりじりするので思い切って手を頭に乗せようとしたときだ。がガバリと顔をあげて、ルークをみた、見開かれた目玉はまん丸で、ルークは手を伸ばしかけたままあたふたと固まる。
はしばらくじっとルークを見ていたが、彼の手のひらを翡翠みたいなスピードでかっさらうとまた抱えたままのクッションに顔ごとうずめてしまった。
!」
小さく叫び声を上げたけれど雷に耳を塞ぎきっているに聴こえもしない。
少し赤くなって口をぎゅっと横に結んだまま、ルークは右手をにとられて突っ立っている。
左手をおずおずともう一度、の頭に伸ばそうと、指先がじりじりしている。


20080828/