![]() |
|
むっつり黙って、兄ちゃんことロヴィーノが帰ってきた。 片手にトマトがたくさん入ったおっきなビニール袋。多分貰いに行った先でも、いろいろ言われたんだろう。ちょっとふてくされたみたいに、おしりのポケットに片方手を入れて立っている。 「兄ちゃんおかえり〜。」 フェリシアーノはちょっと笑った。 その様子から察するに、どうやらもうお説教はされてきたみたいなので、怒るのは苦手だし止めておく。 「…お帰り、ロヴィおにいちゃん。」 ちょっとフェリシアーノの背中に隠れて、が言った。ロヴィーノの出方を窺うような、ちょっと不安そうなその視線を受けて、困ったように彼は顔をくしゃりとさせる。「あー、」とちょっと呟いてから、長い足を畳んでしゃがむとと目を合わせて笑った。 ロヴィーノの困ったようなその眉を片方下げる笑い方はハンサムだと、同じ顔の造りをしてる癖にフェリシアーノは思う。自分にはちょっとできそうにないな、とも。この笑い方に、なぜか女の子は弱いのだ。 の緑の目と、ちょっと目を合わせるとすぐにロヴィーノは逸らした。それからもう一回、ちらりと目を合わせると、の小さな頭に手を乗せる。 「…ただいま。」 早口で小さな声だったけれど、ちゃんと聞こえたようだ。おかえり!と花の咲くように笑って、が繰り返す。 一回言えば聞こえるだろ、とちょっと苦笑しながら、それでも立ち上がってと手を繋いでやるロヴィーノの目玉はなんとも言えず優しい。 俺知ってるよ、目玉は嘘をつけないんだ。 その様子をキッチンからにこにこ見ていたフェリシアーノは、胸の中でもにっこり呟いた。それに気がついて、ロヴィーノが声を大きくする。なに笑ってんだコノヤロー! 「わぁ!なぁんでもないな〜い!」 また兄の機嫌が悪くならないうちにと、彼は慌ててパスタの皿をテーブルに運ぶ。大きなお皿にトマトをたっぷり使ったパスタが山盛り。 「兄ちゃんお腹空いたでしょ。」 「………まあな。」 それにしても多すぎないか、という言葉は飲み込んだ。結構お腹が空いていた。 向かい合わせに座った兄弟の、真ん中の小さな椅子がのだ。いつもの席順。の分をよそってやりながら、フェリシアーノがちょっと笑う。 「今日のご飯は@@@も手伝ったんだよ!ねぇ〜?」 ねぇ〜とにこにこ、おんなじことを繰り返すに、ロヴィーノが目をまん丸にしている。はいどうぞ、と二番目に差し出された皿を、彼はまだ目を丸くしたまんま受け取った。そうしてまじまじとおいしそうな湯気のたったパスタを見つめている。 うふふと共犯者の笑いをフェリシアーノとが浮かべて、声をそろえて召し上がれ、と言った。 「…いただきます。」 思わず素直に彼も返す。 いただきますといったけれど、なんだか魔法にでもかかったような気分で、皿の上のパスタを見つめていた。 その一方で、たくさん食べて大きくおなりと弟の方が笑っている。はおいしそうに自分が手伝ったパスタを食べている。口端にちょっとソースをつけてしまっていて、フェリシアーノが拭ってやっていた。おいしいねぇとそっくりな笑顔で二人が笑って、彼もようやくフォークを手に取る。 「…うまい。」 また思わず素直に言ってしまった。 それにが無邪気にうれしそうな笑い声を上げるので、なんだか彼は、たまらないような気分になった。毎朝きちんと弟が編んでやっているの茶色い髪を少しきょとんと見下ろしながら、もう一口。やっぱりおいしい。 「かわいいし料理も才能あるし、はきっといいお嫁さんになれるね〜!」 フェリシアーノがにこにこそんなことを言うので、ロヴィーノはうっかり窒息しかけてしまった。国の権化がパスタをつまらせて窒息死。なんとも様にならない。 すかさず弟の差し出した水を一気に飲み干して、開口一番「嫁になんてやらねーぞコノヤロー!」 それに目を丸くして、フェリシアーノもも笑った。彼はポコポコ怒りながら、真っ赤なトマトみたいな顔をしている。 「ぜったい!だめだかんな!」 「兄ちゃんたら!まだ先の話でしょ〜!」 ヴェ〜とのんきになだめにかかる弟にも彼はポコポコ、「バカヤロー人間の成長なんてあっと言う間だぞコノヤロー!」あ、言っていて少し悲しくなった。ちょっとしゅんとした双子の白いシャツの裾を引いて、が笑う。「だいじょうぶ」とひとこと、お日様の笑顔。なにも心配はいらないのよってそう言う。 「だいじょうぶよ。はね、ロヴィおにいちゃんのお嫁さんになるから」 いい考えでしょうと頬を緩めて顔中で笑うに、え〜俺は俺は〜!とフェリシアーノがちょっとくちびるを尖らせる。その隣で、ついさっき泣きたくなったのも忘れて、彼は誰にも見つからないようにこっそり小さくガッツポーズを作った。 |