(とムキムキ)


「お前たちが子育てなどと言うからどうなることかと思ったが…、」
 とことことがかけてくる。かわいらしい光景に、思わずむきm…ルートヴィッヒも愛想を崩した。かわいいものは、かわいいのである。
「ルートお兄ちゃん!グーテンターク!」
「うむ。ブォンジュルノ、。礼儀正しくちゃんと育っているようで何よりだ。…よくやっているな。」
「へへへ〜隊長に誉められたであります!」
 褒められてフェリシアーノがわけもわからず照れている。こうして見る限り、は健康そのもので、流石このひまわりのような男が片親をしているだけあって、心も素直で健やかに、優しく育っているらしい。少し口やかましいところのある彼の兄の教育の甲斐あってか、彼に似ず礼儀も作法もそれなりに様になっている。
 育ての親がヘタレであれなんであれ、なんとかなるものなのだなぁと、自分もと同じ部類に周りから見られていることなど知らずに、彼はうんうんとひとり腕組みをして頷いた。

「あっ!」
 するとふとフェリシアーノが声を上げて、なんだ?と彼が眉を上げる。
「隊長!大変であります!」
 なんだかちょっと慌てた様子で、一体どうしたのだろう。
「どうした?」
「シェスタの時間でありまーす!あっぶないあぶない!うっかりしてた!!シェスタシェスタ!」
「シェスタ〜!」
 いや、ちょっと待て、と言いかけて彼はうっと詰まった。はまだ子供だし、実際昼寝は必要だろう。それにシェスタはイタリアの文化だし…、

「って待たんかアアアア!」
 そこまで考えて、叫んだ。
「ヴェ?」
「脱ぐなあああ!」
 もっかい叫んだ。叫びながらフェリシアーノが半分脱ぎかけていたので慌てて止める。も脱ぎかけてきょとんとしていたので一緒に止めた。どっちも心臓に悪い。
「情操教育に悪いだろう脱ぐな!出すな!」
「ええええ!前に言われてから俺ちゃんとパンツは履くようにしてるよ〜?にだってパンツとキャミソールは着せてるしぃ…」
「ダメなものはダメだ!服を着ろ服を!」
「え〜」
「え〜」
!真似をするな!」
「ジャー!」
 このムキムキの剣幕に泣かず、ちょっと背伸びをして、さっと敬礼を返すあたりも相当慣れている。
「いいかパジャマがあるだろうパジャマが!着替えるのが面倒くさいならそのまま寝る!はほら!前にリヒテンにもらったかわいいネグリジェ(手作り)があるだろう!あれを着ろ!わかったか?わかったな?はい!行く!」
「ジャ〜!わあ〜い!」
 いそいそ嬉しそうにパジャマをが着に行った間に、フェリシアーノを正座させて、ルートヴィッヒはひとしきりお説教をする。ヴェ〜とかなんとか言って彼が泣いている間に、「おいおまえらいい加減シェスタの時間だぞ…ってげぇっ!ムキムキ!」と迎えにきた兄の方はちゃんとシャツもズボンも着ていて、内心少しほっとする。しかし弟のパンツ一丁を放置していた罪は罪なので並んで座らせて説教しておいた。
 そうしてがやっとお姫さまみたいなネグリジェを着て帰ってきて、フェリシアーノは「救いの女神ー!」と声をあげてルートヴィッヒにごつんとやられた。兄のほうはちょっと顔をトマトにして、口を結んでプルプルしている(風邪か?)のでちょっと無視した。

「いいか?、シェスタの時は今日からそれを着るんだ。わかったな?」
「はーい!じゃなかった、ja!」
「よし、いい返事だ!では総員、ベッドへむかえ!」
「「ja〜!」」
 フェリシアーノとが、歓声をあげて広いベッドに飛び込んだ。「なんだってムキムキに命令…」だのなんだのぶつぶつ言いながら、兄もそれにゆっくりと続く。を間に挟んで、三人が見事な川の字になったのを見届けると、ルートヴィッヒは三人に大きなタオルケットをかけた。

「あれ?」
 それにフェリシアーノが声を上げる。
「ルートは一緒に寝ないの?」
 ヴェ〜と心底不思議そうである。いや、俺は、とつまりかけたルートヴィッヒに、がたたみかける。
「ルートお兄ちゃんもいっしょにシェスタしよ〜?」
 おんなじようにしあわせそうな、たいようみたいなお花の笑顔がふたつ。にこにこ並んで彼を見上げる。
 なんでムキムキなんかと!と言ってくれることを期待して、兄の方を見たら、もうを背中からちょっと抱きしめるようにして、もう眠ってしまったところだった。ふわふわの髪に顔をちょっとうずめて、健やかで子供のようなあどけない寝顔である。肝心なところで役に立たない!ルートヴィッヒは思わず怒鳴りたくなったが、ここはぐっと我慢する。
 そんな我慢するムキムキの心情を知らず、まだ眠らないフェリシアーノとの、攻撃の手は緩むことがない。
「たいちょー!ベッドならまだ収容人数が余っているであります!」
「あります!」
 さらに、うっと彼が詰まる。それを好機と見てとったフェリシアーノが、「もう一押しだよ〜!」そう言われて、がぱっちりかわいらしい瞳をキラキラさせてひとこと。

「ルートおにいちゃん…だめ?」

 だ〜め〜?その隣でフェリシアーノも目をキラキラさせている。
 きらきら。キラキラだ。
 キラキラ………
 キラキラ……
 キラキラ…
 キラ…



 結局キラキラの二乗に耐えられず、ベッドの隅っこに潜り込みながら、の将来がなんとなく見えたルートヴィッヒだった。何人泣かされるんだろうか。ちょっと不安である。



         
(ルートヴィッヒさんの今日のひとこと:この親にしてこの子あり。)