(と荒ぶるじじい)


「ようこそちゃん、ヴォンジュルノ。今日はいいお天気ですねぇ」
「菊、こんにちは!」
 はいこんにちは、と返しながら、菊の頬がゆるんでいる。
「いったいあなたは幾つのお国の言葉でご挨拶ができるんです?」
「ええっと…、ヴォンジュルノ、ボンジュール、ブエノスタルデス、グーテンターク、ハロー、それから、こんにちは!」
「おやそんなにたくさん!」
 すごいですねぇとの頭を撫でてやる菊の顔が、なんとなく孫を見守る縁側の爺然としているのは、本人曰わく事実爺だかららしい。なでなでなでなで。あたりにお花が飛びはじめた。
「菊ー俺も俺も!」
「はい、なでなで」
「ヴェ〜!」
 お花が飛んでいる。
 右手での、左手でフェリシアーノの頭をなでなでして、菊もなんだかご満悦気味。

 イタリアの双子たちは、今日はを連れて、はるばる日本まで遊びに来たのだ。
 一週間も前から菊は張り切って、お家の隅から隅まできれいにし、新しい漬け物も作った。やれやれこれでは本当に遠方から孫たちが遊びに来るじじいです、とは彼の言葉。これから向こう一週間、その本人の言うところのじじいは、きっと張り切りっぱなしに違いない。

 ああ私に腕が三本あれば!
 なでなでしながら当の菊は思っていた。
 右手での、左手でフェリシアーノの頭をなでなでして、するとどうしたことか、それをカメラに収める手が足りない。こんなすてきなシャッターチャンスを逃す手があろうか、いや、ない。なのに手が足りないだなんて、なんてもったいないのだろう!さてどうしたものか。
 そこで彼は思いつく。
 さっきから縁側で、お前らなんて気にしちゃいないぞ、とアイスをかじりかじり、しっかりこちらを睨んでいるロヴィーノである。
 彼にカメラマンを頼めばいいのだ。

「ちょっとすみませんロヴィーノく、「俺だってそのくらい言えるぞコノヤロー」

 ちょっと赤くなってふくれっ面したロヴィーノから、ポコリと音がした。
 菊、固まる。
 沈黙。
 菊の目、点。
 縁側に面した庭で雀が鳴く。チュン。

(なんという!なんという失態いいいいい!なんですかこれつんでれですか私デレられてます!?デレられてますよデレられてます!なぜ!なぜ私に手が四本、いいえせめて三本!三本腕がないのか!一本はちゃんもう一本はフェリシアーノくん、もう一本はロヴィーノくんで、ないものねだりのもう一本は撮影用。いやもうこうなったらいっそ四本なんてちっちゃいこと言わずに千手!千手観音バリに千手で!それがあればなでなで撮影なでなで撮影お菓子あげて撮影トマトあげて撮影テレビのリモコンもすぐとれるし千手パンチもできるし髪の毛を三つ編みにしてさしあげながら晩ご飯の用意もできますうおおおおおおおお腕よ生えろ!!
「菊、菊」
「はい?」
 にっこり笑って呼んだフェリシアーノに、菊もにっこり笑って首を傾げた。
「荒ぶるのは置いといて、とりあえず兄ちゃんをなでなでしてあげてくれない?」
「南無三!私としたことが…って………聞こえてました?心の声」

「だだ漏れ」
「菊おもしろいー!」

 フェリシアーノもも、とてもいい笑顔だった。
「それはとんだ…失礼を……。」
 菊はちょっと泣きながら、ロヴィーノをなでなでした。ああここに私が入れる穴があったら!



 気を取り直して。
「さて、今夜のお夕飯はなにがいいですかねぇ」
 三人に冷たい麦茶を出してやりながら、菊はにっこりと首をかしげた。
 冷蔵庫には食材がたっぷりだ。四人で買い物にでるのもすてきだが、今日は来たばかりで疲れているだろうし、また明日。
 すかさずフェリシアーノが「寿司ー!」と叫ぶ。
「ばーかここはスキヤキだろコラァ!!」
 さっそく兄弟喧嘩が始まった。魚と肉の対決である。じじいとしては魚がいいが、若い方たちのことを考えると肉がいいだろう。
 どちらも美味しいですねぇと菊が笑って首を傾げ、「いっそ両方にしましょうか。」と言いかけたその時だ。はい!と元気よく、が手をあげて、言った。

「おゆうはんは、パスタがいいです!」



(うっううまさかちゃんがわざわざ日本まで来てお料理してくださる
だなんてまあなんて大きくなって!もうじじいは感激で前が見えn
ぴんくエプロン萌えええええ!!!(パシャパシャパシャパシャ!))