(とセダーン!と妹君)


「グリュエツィ!バッシュお兄ちゃん!リヒテンお姉ちゃん!」
「うむ!ブォンジュルノ!ちゃんと挨拶できてえらいのである!」
「ふふ、ブォンジュルノ、さん。」

 今日も勇ましく、武器を背負ったお兄様が腕を組んで大きくお腹から声を出す。も大きな声でご挨拶。それは彼のお気に召したらしく、うむうむとしきりに頷いている。その隣で、髪にリボンをひらひらさせて、お花の妹君が微笑む。
「今日は一体どうしたのだ!まさか一人でここまで来たのではあるまいな!?」
 このような小さな子供に独り歩きさせるとは…!けしからん!
 まだがなにも言ってやしないのに、お兄様は銃を構えた。戦闘態勢…やる気とかいて殺る気である。どこからから悲鳴が聞こえた。ような気がする。は一度首を傾げ、気を取り直してお兄様が本気でイタリアへ向かおうとする前に口を開いた。

「きょうはね!、リヒテンお姉ちゃんにお礼にきたの!だからロヴィおにいちゃんとフェリお兄ちゃんにたのんでひとりできたの!」

 はい、と元気に手をあげて、がお兄様のやる気を見事に削いだ。
「そうか!ひとりで来たのか!えらいのである!!」
 さっきまでのみなぎる殺気も忘れて、ほめている。その隣では妹君が、「お礼?」なにかお礼をされるようなことをしたかしら、とおっとり首を傾げていた。

「リヒテンお姉ちゃん!」
「はい。」
 呼ばれてにっこり、妹君が微笑む。
 つられてもにっこり笑って、その顔を見上げた。

「あのね、すてきなパジャマをどうもありがとう!」

 それでやっと彼女は合点が言った。
 この間、兄と自分の枕カバーを新しくした折に、たくさん真っ白なレースの生地を買ったものだから、その余りでにかわいらしいネグリジェを作ったのだ。女の子ならだれでも一度憧れるような、ひらひらふわふわのお姫様みたいなやつ。作りながら楽しくなってしまって、ずいぶん凝った。
 双子の兄弟に挟まれ川の字になって、眠っている写真をルートヴィッヒに見せてもらったのが記憶に新しい。
「それでねえ、これ、おれいなの!」
 背伸びをして、がなにか小さな包みを差し出した。
 いかにも手作りの包装紙、紙のリボン。
 まさかお礼をくれるだなんて、思っても見なくて、彼女は思わず、の目線までしゃがんでそれを受け取った。

「ありがとうございます…!」

 ぎゅっとその小さな包みを胸の前で抱きしめると、がにこにこと笑う。開けてみて、と期待いっぱいのまなざし。
 はい!と頷く妹君を、お兄様もほほえましく見下ろしていた。
 今日は銃を構えるのは止めよう。
 少し離れた茂みにむかって、ふっと笑みを投げる。不自然にガサリと、それを受けて茂みが揺れた。まったくあの双子め、バレバレである。
 しかしながら黙っていてやろう、と彼は少し満足げに頷いた。
 茂みの向こうでそのめった見られない微笑の意味がわからない誰かさんたちは、若干パニックになっている。お兄様が笑うと、なんだか殺す側が殺す前に一瞬殺される側に見せる微笑にしか見えないものだから。
 しかしそんなパニックを知らず、と妹君はなかよく小包のリボンを解いていた。
「なんでしょうか…まあ!」
 妹君が、明るい声をあげる。
 包みから出て来たのは、四葉のクローバーが張り付けられた、紙で作ったしおりが二枚。赤いリボンと青いリボン。

「赤い小鳥がおねえちゃん、青い小鳥がおにいちゃん。」

 歌うようにが言った。
 クローバーの隣には、クレヨンで小さな鳥が、描かれている。
「お兄ちゃんにもあげるね。」
「…そうか。」
 おすそ分けって言うんだよー、とが笑った。妹君も笑っていて、なんだかお花が飛んでいる。お兄様からも、ちょっとだけ、お花、転がり落ちて、やっぱりそれを目撃してしまった双子が、茂みの向こうでふたたびパニック起こしましたって。



(どどどどど!どうしようにいちゃーん…!バッシュわらってる…!
わらってるよおおおお!ついてきてるのバレてるよおおお!?
チギイイやられる…!このままじゃ確実に殺られる…!!)