00.プロローグ

 始まりのお話は、私たちが生まれたとき、そうであったように、あなたの声で始まるのがふさわしい。眠る前、そして目覚めた朝に、おはようとおやすみを囁くその声で、どうぞ、この物語の始まりを告げてほしいの。
 だからお願いしてもいいかしら?
 ―――そう、ありがとう。
 ではフェリシアーノ。お願いね。
 さあ、みなさんはどうぞお静かに。彼の声はひどく近く、ともすると聞き逃してしまうから。いつも私たちにささやいている、その声。聞き逃さないで。囁いている。いつも、いつでも。歌っている、その声を。
 ほら、ね、始まるわ。
 彼の物語るお話。
 それはいつだって、私とあなたと彼の、たいせつなおはなし。


 ―――俺たちはいつでも、みんな、そうだよ。お前のことばかり、考えている。朝も昼も夜も、眠っている間もね。
 嘘じゃあないよ、ほんとうのこと。
 お前のマンマも、お前のパパも、そのマンマも、そのパパだって。ずっとずっとそうやって育った。
 この地に生まれた子はみんな、みんなそう。かつてお前が生まれる前に、祝福の歌、聴いたように。常に、俺たちのこころ、とらえて生きていくんだよ。だってどうしたって、お前たちみんなのこと、いつだって考えてしまうんだ。わらったかお、ないたかお、おこったかお、しあわせなかお。どのかおもいとおしいね。
 みんなかわいい、子供たち。
 お前たちが眠る前、毎晩俺が、お話を読むんだ。気づいてた?
 おやすみ、おやすみ。ここがお前のふるさと。
 故郷を離れて遠くへ行っても、どうぞ忘れないでね。思い出して。イタリアの真っ青な海と空、輝く風と、麦の穂の金色、マンマの料理。石蹴って遊んだ小さな友だち、黒い野良犬、教会の鐘。庭のブランコ、小さなお花。夢中になって読んだ物語と、クリスマスの聖歌。
 それから眠る前のお話と、暖炉で燃える優しいほのお。
 覚えていてね。
 いつでもここで、待っているよ。いつでもここに、帰っておいで。最後の時が訪れて、お前を眠らせるまでに。



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