01.おやすみの話 |
おやすみの話。 おやすみの話をしよう。小さなお前が眠ってしまうその前に。 金の稲穂、きらきらとかがやく、美しい黄金の、夢の話しよう。 「おはなしですか?」 「そうだよ、お話し。」 毛布の中でお話しするのは、なんだか優しい静けさです。 おやすみの話。 さあ、眠りの河に舟を出そう。真っ白な舟には、小さなと、青い花白い花、淡い色した花をたくさん、それから青いお馬の騎士に、小さな金のホルンをひとつ。ぜんぶ乗せたら、彼は腰まで水に浸かって、舟を流れの速い河の真ん中にまでひっぱると、「おやすみ」の囁きと一緒に水のゆく方へ、押し出すのです。 すると小舟は流れに乗って、ゆぅらりゆらゆら、河をくだってゆきました。白い花に埋もれて、は船の上、祈るように少し手を組んで、おやすみ、おやすみ、と小さな声でさざめく波音を聴きながら、こんこんとどこまでも流れる水の上。 ―――それから? それから?それから、そうだなぁ。 彼はちょっと楽しそうに片目をつぶってしばらく考えると、またお話を続けます。 が目を覚ますと、知らない浅瀬に小舟は漂着したところ。白い砂浜に光る空、それから真っ白に輝く空だよ。気持ちのいい風が吹いている。白い鴎がすぐの真上を掠めていって、黄色い花があちらこちら、体を起こして船縁から見下ろすと、波打ち際の優しい緑と白色泡の下、赤い蟹がぷくりぷくり、笑っている。降り立てば波は君の裸足の足をちょっとくすぐって笑うだろう。白い光が燦々と幾重にも、降り注ぐ浜辺だよ。静かで、光に満ちている。 ―――それで? うん、それでね、君は少し波と鴎と蟹と戯れて、でも少し寂しくなるの。それでだから、金のホルンを鳴らす。すると青い馬の騎士が、むくむくと大きくなって小舟から飛び出すと、恭しく君の手を取って、馬に乗せてくれるよ。 そんな不安そうな顔をなさいますな、Signorina.すぐに着きます。なぁに、掴まっていればすぐですよ。 騎士は舟の番をしなけりゃならないから、君を乗せたら青い馬に、ノロリム、と囁いて送り出す。青い馬は光の中光の中、風に溶けるように軽やかにはやく走る。走った後に光の軌跡が残るくらいにはやく。たてがみが靡いて、真っ青な影を散らすだろう。 砂浜はやがて草原に変わって、やわらかい緑のなか、やっぱり風に溶けるように青い馬は走り続ける。君はあたたかい毛並みに頬を寄せて、じっと安心してしがみついている。 そうして馬は、やわらかくて気持ちの良い風が吹くなだらかな丘へたどり着く。賢い鼻先で、降りなさいとお前に言って、裸足の足はやわらかい草と花の上。ほろほろこぼれるように、赤や青の花が咲く丘だよ。君をずいぶん待っていたよと風がわらう。花が揺れる。僕が手を振る。 緑が揺れて、ようこそ、ここは夢の国。 ―――…それから? つぶやかれた言葉は夢の世界に転がった。 おやすみ。おやすみなさい。おやすみなさい。おやすみ…、 |