青と金色の絵。真っ白な鳥、金色の地平線掠めて飛んでゆく。宝石のような青。金色の合間に埋もれた緑は黄土に似た橙。あああの真っ青に青ざめたクリアブルー。夏の光を額縁に閉じこめて。
「いい絵だね。」
しみじみと穏やかな声音に、少女は振り返った。不思議に静まり返った真っ黒な瞳で。少女の目は黒。あの青を幾重にも重ねればきっとそんな色になる。絵画の前に立って、彼女は不思議と、絵の一部だった。ひょろりと伸びたしなやかな手足。真っ白なワンピースは絵の中から現れたのだろうか?金色の額縁の中では、向日葵が夏の日差しに揺れてる。静かな目のまま、少女がうなずく。
「ほんとにいい絵だね。…僕、好きだな。」
 眼差しでその乾いた油絵の具の表面をなぜるように、彼はそっとはにかんで灰色のマフラーに口元を埋めた。
 窓の外なら真っ白な冬。少女のはだしのつま先の、あんず色だけひどく甘美。少女はやはり黙ったままで、静かに静かに彼を見ていた。黒い髪、静かに細い背中に流れ落ちる。天の川みたいだね。そっと触れたら温度もなくて。少女は音もなく微笑った。
 画家が夢想し焦がれながらも、ついぞ見ることのなかった幻の国の娘。ゆめまぼろしの少女。象牙の肌。ねぇそんな不思議な微笑してどこから来たの?
 真っ青にひかれた地平線で鳥が一羽、舞う。ああきれいだな。囁くのは麦畑の金銀。遠く聞こえるのは画家の低く太い鼻歌、歌詞のないメロディー。南へ南へ思いを馳せて。透明なブルー。彼の夢見た。
「僕、この絵好きだよ。」
 だってとてもよくわかるもの。ああ彼の愛した美しい夏。金銀稲穂の波。白い鳥。瞼を閉じて思い浮かべる。ああ夏の金と銀。その青。わかるよ。画家に微笑みかける。だから。
「…だから貰っていくよ、。」
 少女が顔をさっと白くした。
「僕とおいで。」
 窓の外に舞うのは雪。厚い雲がほらもう真上に来てる。虚ろな目のまま氷上で踊ろうよ。僕にその青をずっと見せてよ。
20090214