彼一押しのSFコメディドラマ、レッドドワーフを鑑賞する会はついに第3回を迎えた。 「だからなんで俺の家でやるんだい…、」 クッションを抱えながら解せない、と表情を曇らせるアルフレッドの手元には、本日二本目のコーク、2リットルペットボトルとバケツアイスがある。ちまちまと小さなカップからアイスを掬いながら、それを呆れた目で眺めるエイリアンと地球人。階下からは、「アルー?ピザ届いたわよー!」と彼の母。ふぁいと口の中でアイスとコークを混ぜ合わせコーラフロート気分を味わっている息子は、ベッドから立ち上がる気配もない。 「…俺取ってくるわ。」 我が家も同然な人の家、アーサーは立ち上がった。行ってらっしゃいとエイリアンに見送られ、階段を下る。 「あらアーサー、悪いわね。ついでにチキンはどう?昨日の残りだけど。」 「…おばさん、これ以上アルを太らせてどうするつもりだ?」 「あら!かわいいでしょ子豚ちゃんみたいで。」 きゃっと少女のように頬に手を当てた母親を尻目に、結局ピザとチキンとポテトチップという諸悪の根元のような取り合わせを両手に抱えて、彼は階段を登った。扉を開けると、アルフレッドはベッドの上で爆笑していて、「あーっ!チキンもある!気が効くじゃないかアーサー!」床に座ったは微動だにしないまま、画面に見入っている。黙々と機械的にアイスを口に運びながら、横目でチラリとアーサーを見る。 「お疲れ様です。」 「…おう。」 「早く!ピーザ!ピーザ!ピーザ!」 「お前はうるっせぇよ!」 叩きつけるようにピザの箱を開きながら、アーサーは机を挟んだの向かいに腰を下ろす。ちょうどベッドが背もたれになって、足を伸ばせるいい位置だ。 一気に半分ほどピザを持っていこうとするアルフレッドをあしらいながら、エイリアンとアメリカ生まれの自称英国紳士はピザを手に取る。 やはりそれを淡々と口に運びながら、の視線はテレビから外れない。これでもか、と穴があくほど画面を凝視している。ちょうどその画面上ではオチにさしかかり、笑いを誘う場面だ。 「ぶっ…くく、」 何回見ても笑える。思わず吹き出した彼の後ろで笑いすぎてヒイヒイ言いながら、アルフレッドがピザを頬張る。 「アーサー、君、こんなの深夜にひとりで見て笑ってるとか想像しただけで…うわぁ…。」 「お前はなににウケてんだばかぁ!」 「そりゃあ彼女できな…ぶっ!あーはははは!なんでここで爆発するんだい!?クレイジー!!」 笑い声がたいそううるさい。大層うるさい上にそれ以上に傷つく。彼のハートはそもそも脆い。しかしそんなうるささをスルーして、はガン見である。それはもう瞬きすらしないほど、画面に見入っている。その表情は真剣そのもので、しかしピクリとも動かない。なんだかピリピリとした緊張感すらうっすらと漂ってきて、思わず笑いもひっこんでゴクリと唾を呑みこむアーサーだが、アルフレッドは気にせず馬鹿笑いしている。 笑っていいのか?笑っていて、いいのか? コメディを見ながら抱く感想ではあるまい。しかしアーサーの頭の中では、もしやの星ではコメディとかありえない系?ありえない系?え、俺もしかしてものすごく見せてはいけないものをに見せてる?と冷や汗ダラダラ通り越して洪水である。 そんなアーサーの緊張を知ってか知らずかますますの背中の緊張感は高まり、そうしていつもの通りくだらないオチをつけてドラマは終わった。 「あ〜〜わらったんだぞ!」 、次のDVD!とアルフレッドが目じりの涙を拭いながら、ついでにチキンの油もパーカーの裾で拭っている。目ざとくそれを見つけてティッシュ箱を投げつけながら、静かにDVDをデッキから取り出すの背中をオロオロとアーサーは伺う。その視線に気づいたのか、ぐるりとが振り返った。相変わらずの、無表情。瞬きすらしないその顔は、真顔過ぎてちょっと怖い。 「…なにか?」 「お、おう。」 「?」 さくさく行きましょう、と次のDVDをがデッキにセットする。押される再生ボタン。 「い、いいのか?」 「なにがです?」 ババンと浮かぶタイトルロゴから目をそらさずに、が不思議そうに尋ねた。 「いや、……その、なんつーか、お前、わらわねーし…?」 その言葉にやっと、はテレビ画面から目を外してアーサーを見た。ベッドの上でまだドラマは始まってもいないのに、アルフレッドが大爆笑している。 「…すみません、そもそも笑顔と言う文化がないんです。」 地球に来てから覚えましたと淡々とが述べ、アルフレッドが補足のように、「今は『なにこれクソ面白いんですけど!!!』って大爆笑しながら見てたんだよ!!ただそれを!表情とか笑い声として表に出すっていう風習がないんだ!」と笑う。 「アーサー、君、途中からが笑わないもんだからハラハラしてドラマどころじゃなかっただろ!」 「!気づいてたなら早く言えばかあ!!」 黙々と集中してドラマを見続けるの背後で、レスリング大会始まり始まり。 |