アーサーは自分の庭にありえないものを見つけてぽかんと立ち尽くした。 「あ〜!アーサー!」 ばらの庭の一角に、誰が用意したのか真っ白なテーブルに椅子、クロスにナプキン、ティーセット。すてきなすてきなお茶会だ。テーブルの真ん中には、昨日アーサーが丹精込めて作った花束が生けられている。そうしてその素敵なテーブルに、誰より素敵なお嬢さんがひとり、腰かけてこっちに手を振っているのだ。 夢かな、これ、夢だな。 アーサーは一瞬回れ右してベッドに帰ろうとするが、それを彼の肩越しに飛んできた妖精さんに阻まれた。手には重たげなクッキーの瓶を抱えて、ああ、落とす、落とすぞ。ハラハラする前にやっぱり落として、しかし猫がうまい具合に背中でそれをキャッチした。 『いたいじゃにゃいか、お嬢さん。』 『ごめんなさい、ありがとう、サー。』 ユニコーンがさっさと口で瓶を拾い上げるとテーブルに置く。 「わあ〜!ありがとー!馬さんすげー賢い!アーサーん家の猫もお馬さんもめっちゃ賢いな〜!すごいな〜!!」 はかんらかんら笑いながら顔を赤くしている。 …夢じゃない。 思い至ってアーサーは今更悲鳴を上げる。 「!?」 「はい!でーす!」 「お前!?えええ!?なんっ!ええええ!?っていうか妖精!お前!見えたのか!?」 聞きたいことがまとまらない。 「いやー!いつの間にか飲んでも飲んでも差し出される紅茶がおいしくてね!?いやー飲めば飲むほどいい気持ちってこれ酒入りじゃねえかー!ってね!?んでもう酔えば酔うほどなんかあっちにもこっちにもちっちゃいべっぴんさんとかちっちゃいおっさんとかマシュマロみたいなんとかいろいろ見えてきて…お酒ってたーのしー!!」 若干パブっている。 酔うと見える体質だったらしい彼女にハアとため息を吐きながら、これこれ、と差し出された手紙を見る。
青いインク。見慣れた子供みたいな文字だ。これでもずいぶん、うまくなっただろ、と笑う机の下のオバケの字。敬具なんて言葉、どこで覚えたんだろう。 「これ、」 「もらったから来たよ〜お招きありがとう!」 「いや、招いたのはこいつらだ…。」 「お〜!そっかありがとう不思議生物たち〜!」 『どういたしまして〜!!』 きゃっきゃと妖精さんとがはしゃいでいる。やっぱり夢かしら、とそう考えかけたアーサーのすぐ隣を大きなケーキが飛んでいって、そのままふわりとテーブルの真ん中に着地する。 「ばらのパーティーなんてしゃれてるなあ!」 はずっとにこにこしている。笑いっぱなしで目なんてなくなるんじゃないかと思うくらいだ。ああもうこいつばかか。思わず悪態をつきかけたアーサーの悪いお口を塞ぐように、猫がたしりと元気な方の彼の足を叩いた。目を落とすと、三日前からリボンをかけていたプレゼントの箱を、しっかり猫はその背中に乗せていた。 まったくどいつもこいつもだ。 いったいいつから準備して。その背中で今朝の小人が、『ごめんね、ちょっと転ばせるだけのつもりだったんだ。』と本当にすまなそうに眉を下げている。いったいどこまで準備して。 「ほんまにばらきれいだもんなあすごいなあ…!」 どいつもこいつも。 アーサーはあきれて、ちょっと堪らなくなって笑い出した。 今日は君の誕生日、だろ。 猫から受け取った包みを背中に隠して、いっぽ踏み出したら妖精さんたちみんな、ニヤニヤ同じような顔で笑ってアーサーのことを見た。だから彼はまず真っ赤になって怒って彼ら全員追い出してから、それからやっと、飛んで会いにいくはずだった女の子におたんじょうびおめでとうって。 |
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