こんばんは、お嬢さん。
 ひとりぽっちでどうしたのかな?星は確かにきれいだけれど、もう夜も遅いよ、窓辺は冷える。こんな夜中に窓からボンソワってする兄ちゃんを許してくれな。だってあんまり急いでたもんだから、兄ちゃん飛んできてしまったんだよ。ほんとうだよ。実は今まで黙ってたけど、兄ちゃんはほんとは空を飛べるんだ。嘘じゃないよ、本当さ。あんまりさびしい静かな夜で、ついさっきまで、兄ちゃん仲間と飲んでいたのだけれど…ああ大丈夫、酔っ払ってなんかいないし、ましてやあいつらのことは、気にしないでよろしい。あいつら子分と弟の話ばっかりで、俺は退屈していたとこなんだ。それであんまり静かな寂しい夜で、窓の外を見たよ。青い空に星が出ていた。スピカがひとつ、きらきらきらきら…。
 それで兄ちゃん、気がついたらに会いたくなってここまできたよ。飛んできた。もそうならいいのになって思うよ。だから泣くのはおよしよ、な?
 ん?なんでわかったかって?そりゃ。、俺はみんなのフランシス兄ちゃんだからね。わかってしまうのさ、かわいい誰かさんが泣いてたらね、。とくにかわいい誰かさんのことになるとね、うん、そりゃあ、よくわかるもんさ。
 さて今日はもう終わりかけだけれども、この夜は兄ちゃんを貸切にしてあげよう。なにしたっていいよ。枕にしても、話し相手にしても、ハンカチ代わりにするのもいい。サンドバックは勘弁して欲しいけど、もちろんエッチなことはしてもいいよ。やあごめん、冗談冗談。兄ちゃん今日はほんとうに、が泣かないようにきただけなんだ。


伝書鳩の言うことには













 スピカに伝言を頼みました。
 こんなに静かで寂しい夜ですから、少しばかり、ひとりがせつなく感じられます。だなんて、いいえ、嘘。ほんとうはとても、なぜだか静かで寂しい夜です。つま先が寒くて、どうにも眠れない夜です。
 お空は真っ青な群青色、星に窓辺は照らされて、ねえ、ああ、少しだけ、誰も、なにも、話さないで。少しだけでいい、星の瞬きも、どうぞ声を潜めて。もっともっと静かな夜なら、きっとこのさびしさも息を潜めて。
 呼吸もごくごく控えめに、けれどお空の星は賑やか。たくさん光って、笑っている。お空は明るくて、せつなくなるから、そっと目蓋を伏せる夜です。こんな日なのに猫はいなくて、お魚の柄した小さなお皿も手持ち無沙汰な様子。
 空はなるべく見ないように、窓辺で夜の街並が、しずかにきらめくのを眺めます。地上にも星があるといったのは誰だったかしら。結局あの町のあかり、ひとつ、ひとつ、に優しい静かな囁きがあって。ああやっぱり夜はにぎやか。スピカがひときわ明るく空のてっぺんできらきらきらきら…。仕方がないから目を閉じて、もうそろそろ眠ろうか。
 コンコンコン。にゅっと伸びてきた窓ガラスを叩く手のひらが続く手首の形、とてもよく見た形。後ろ髪を結わえたリボンが揺れる、襟足の形。
「こんばんは、お嬢さん?」
 お日様の色した金の髪、青い目は星の色。

スピカのでんごん
(20090724)