夢を見る。砂漠の果て、海の底。ここはうつくしい、青い世界。これは夢、ぜんぶ夢。夢。夢の中では自由で、どこへでも行けて、誰にでも会える。眠っている間は永遠に自由だと、そんな風にすら思う時があるだろう。眠りの河を渡る時だけ、目覚めているように感じたりは? しかし私は違う。夢で行く場所も、会う人も、たったひとつ。そうしてそれが現実に与えられることをばかり、望んでいる。 |
(to give) |
「アル、なんだ、お前ぼーっとして。」 ソファでアルフレッドが、何をするでもない、ただ座って、窓の外を見ていた。 口元に手をやって、いつになく静かだ。アーサーが声をかけたときも、半分眠りの中にいるように、ぼんやりとしか反応しない。 めずらしいこともあるものだ、と彼は腰に手をやって、少し首を傾げる。 いつもはうるさいと文句のひとつも言ってやるのだけれど、こんなに静かだといっそ調子が狂う。 「どうした?最近なにをするにも上の空じゃねぇか。」 「……別に、」 きゅ、と唇を結んでアルフレッドが下を向く。別になんでもないという顔ではないだろう。困ってガシガシと頭を掻くと、ため息をひとつ、アーサーは弟の隣に腰を下ろした。 「…なんだい。」 「お前がなんだ。」 そう言いながらちょろっと横目で見ると、む、と眉間にしわを寄せたアルフレッドが映る。 「夢は…………、」 「あ?」 「集合的無意識の表出、なんだっけ?誰だこれ、ユングかな?ああ、参ったな、僕はとんとそっち方面にはうといんだ。」 「アルフィー?」 怪訝そうなアーサーの声に、はっとしたように海の瞳を瞬かせてアルフレッドが顔を上げた。「ああ、」とすこし前髪をかき上げる仕草がくたびれて見えて、アーサーは眉を寄せる。ほんとうに、へんだ。弟がこんな風に物思いに沈んでいるところを、そう言えばアーサーは見たことがなく、対処に困る。 「おなじゆめをみてる、」 口の先だけでささやかれた言葉はよく聞こえなかった。 「なんだって?」 「…なんでもないよ。」 それに何か言おうと開きかけたアーサーの口を、電話のベルが止めた。すこし躊躇して、アルフレッドを見、しかしため息をついてゆっくりと立ち上がると、アーサーは受話器を取る。 「もしもし?」 『…もしもし。』 遠慮がちに、若い女の声だった。 『アーサー・カークランドさん?』 「ああ…誰だ?」 尋ねてからになって、すみません、と相手が小さく謝ったのを聞いてアーサーはふいに思い当たった。 『です。』 やはり。 受話器を持ち替えて、しっかりと握る。自然に少し、背筋がのびた。 アルフレッドはまだ、窓の外ばかり、見ている。 |