(lies)  


 はよく陽のあたる窓辺のベッドに横たわっていた。
 これだから病院は嫌なのだとアーサーはいつも行く度に思う。あんまり白くて、清潔すぎて、ふいに不安になるのだ。まるで足場のない真っ白な光の中に浮かんでいるような気分がするものだから。

 彼女の病室は一等日当たりがいい。窓から庭が見える。
 包帯でぐるぐる巻きにされていても、彼女は元気そうに見えた。ベッドの上で、上体だけ起き上がって、しかしそれ以上は動かれないから、「退屈です、アーサー。」なんて口をとがらせたりする。
「いいから寝てろばかぁ!」
 そう言うと、寝ていても起きていても全治2ヶ月と出された診断は変わらないのだからどっちでもいい、などと子供のようなことを言う。
「右手が無事でよかったです。」
 ギプスでぐるぐるに固められて、三角巾で吊られた左手をちょっと振っては言う。
「原稿はこれで書けますものね。」
 片手でパソコンって打ちにくいですけれど、左手一本よりはましです。どこまでもポジティブだ。友人の新しい一面を見て、アーサーは感心していいのか呆れていいのかすこし迷う。
 どたどたと廊下を走る騒々しい音がして、「ああ、本当に来た、」アーサーは目を丸くしてから肩を竦めた。病院では静かに、と後で言い聞かせなくてはならない。がくすりと笑う。

 バタリ。ドアがけたたましく開く。
 そうしてアルフレッドが息せき切って駆け込んできた。真っ白な光の中に飛び込んできた影法師は、青い影、落としている。眼鏡なんて走ったためにずれてしまって、髪の毛も風でぼさぼさ。大きなジャケットもちょっと脱げそうだ。膝に手を当てて、一度息を整えると、彼はそのままつかつかとベッドの傍らに歩み寄る。
 真っ青な目玉。

「まったく君はいつもいつもいつも…、」
 そこまで言うと、ベッドに顔を押し付けて、彼がうめくように泣き出した。アーサーはびっくりして目をまるくする。

「勝手にすぐ死ぬ。」

 泣いたと思ったら泣いていなかった。顔をあげて、少し子供が母親にすねて甘えるようにを見てそう言った。は微笑う。首に巻かれた包帯も、全部関係ないようだ。やわらかくて、やさしい。
「あなたもそうよ?」
 その白い手が、彼の頬に伸びた。それを顔の前でぎゅっと握って、アルフレッドが口をへの字にする。
「せっかく同年代なんだから、君、もう少し命は大事にしてくれなくちゃ…。」
 わらったにますますアルフレッドは困った顔をした。そうしてその彼以上に困った顔をしたアーサーは、ただそこに立ち尽くしている。