(the Rose)  


 春の花の咲く庭にふたり。
 絵本のような、花の洪水、色のとりどり。どれもが風に輪郭をにじませて、わらっている。赤い花、白い花、黄色の花。その名前を知っている?彼は知っている。彼の弟はチューリップくらいしか知らない、彼女はすべて知っていた。
 小さな家から、アルフレッドが出てくる。まだうまく歩けないの手を引いてゆっくりと。
 花の真ん中に光を浴びて、真っ白な椅子がひとつ。こういうエスコートはアーサーのほうがうまいんだよ。柄じゃないと少し照れながら、ちょっと椅子を引いてを座らせた。日差しはやわらか百色をして、穏やかな春の午後。空では雲も、のんびり浮かんで、真っ青に空、うらうらと照れている。
 つまりどういうことなんだ?

「つまり、」

 椅子に座ったままのを少しやさしく見下ろして、照れたように彼が頬を掻く。なんと言えばいいのかしら、そんな表情。

「ここは砂漠で、うみのそこの、世界で一番美しい場所なんだよ。」
 
 少し考えてから、彼がそう言って、がその青い目を見上げて、うれしそうに笑った。肩の上にそっと置かれたやさしい手に、白い手を重ねて。
「久々のハッピーなエンド?」
「あら、いつもしあわせだわ。」
「そうだった。」
 おどけた様に肩を竦めた彼に、が笑う。花も笑う。その花のどれもが、おとこのことおんなのこ。いつかであった海の底、砂漠の彼方。
「それに終わりはないんだった。」
 図書館の隅に眠っているかもしれない、赤い背表紙の古い本。それと同じだね。彼の手帳は、アーサーがたからものにしてしまっているし、でもだいじょうぶ。ぜんぶおぼえているからね。ねえ君ぜんぶ覚えている?覚えていなくたっていいんだよ。全て手遅れなんてことはひとつもないんだからね。いつでも世界は海の底、青い光満ちた、花の咲き乱れる砂漠。歩いて歩いて、そしていつもあなたにたどりつく。

「だからもうだいじょうぶ。」