美しい山々、サファイアの湖。鳩が舞うここは永久平和の土地。
馬鹿馬鹿しい。フンと鼻を鳴らして一笑するとスイスはその素晴らしい歌い文句を蹴りだした。
(…馬鹿馬鹿しい。)
ここは永久中立の国。永久にひとりの国。どこにも味方せずどこにも組みせずどこにも関わらずどこからも味方されない。自らの安全、そのためだけに彼は武器を取った。そうしていつか度を超した。馬鹿馬鹿しい。
すべて一笑してしまいたい気分だ。いつだっていつだってそうだ。
荒野の土地、武器を取るのはいつだって己のためだった。これからもこれからも。ああこの均衡が崩れることなどありえない、いいやありえてはならないのだ。
(ここは我輩の国だ。)
この痩せて乾いた大地ですら愛おしい。森が、空が、山が。すべてだ。ここに根をはる人々が愛おしい。守ろう、守ろう何者からも。彼は目を閉じる。目を閉じる。他なんて別に。どうだっていいのだ。
ここだけあればいい。ここだけ残ればそれでいい。
『スイスさんスイスさん、』
聞いて下さい、とどうしてあの子の顔が浮かぶのだろう。
四季折々の恵みを一杯に受けて育った子供だ。豊かな国だ。今までの歴史の中であんな国他にあったろうか。そんな国の、しかもきっと一番飢えも乾きも知らない、銃の重さもなにも知らない子供だ。しかも人間。瞬きする間に消えてしまう。
「…我輩は少しおかしい。」
彼は少し笑うともういちど目を瞑りなおした。もうなにも見えないように。夜だもの、眠ろう。隣でくまさんが小さく笑った気がして、彼は少し気分が楽になる。
「フン、か。」
おやすみなさい、ひとりぼっちのあなた。
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