「こらーっ!待て!花たまご!」
そんな声が聞こえた、と思ったら、転地がひっくり返って視界に真っ青な空。と、犬。
「犬うううううううううううううううううううううううう!!!!?」
***
「す、すみませんでしたうちの花たまごが…!」
「い、いえいえいえいえいえ、いいですからさっさとその犬どっかしまってください私の目に入らないところに!」
盛大に小さな子犬に倒されてしまったのが恥ずかしいが、そんなこと言っている場合ではない。犬はだめだ。どうにもだめなのだ昔っから。それなのにこの男、子犬を両手で抱きかかえて「ほら、花たまごもごめんなさい、って。」などとキラキラした笑顔でこちらにそれを近づけてくるのだからたまったものではない。かわいい顔してこいつ、鬼か。天然とは時に天性の鬼畜と化す。その名言を今日、私は深く胸に刻み込んだ。
引きつった顔をしている私に、何を勘違いしたのかその男、ますますにじり寄ってくる。その目が泣き出しそうに必死かつ申し訳なさ有り余りまくって200%な様子なので、うかつに悪態もつけない。
「ほんとにすみませんでした…お洋服、弁償させてください!」
「いや、もういいですからほんと犬連れてどっかいってくださ…!」
確かに雨上がりの公園でひっくり返されたために私の服は泥んこだ。しかし、犬。犬だ。犬だ。犬が、犬がこんな、近く、に!
「いいえ!そんなことできませんぜひお詫びを…!」
「いいですから!ほんっといいですからアアアアア!!!徒歩3分で帰れますからお気になさらずううう!もうむしろいっそ永久に消えてください!」
「女性をそんな格好で一人歩きさせるわけにはいきませんよ!」
「いやだから犬近づけないでぎゃああああああああ!!!」
***
「………なぁにしてんだ。」
「あっスーさん!!!この方さっき花たまごがじゃれ付いて転ばせてしまって今いきなり倒れられたんですよ!!!打ち所悪かったんでしょうかどうしましょう…!!」
「いぬ…いぬ、…!」
「………まんず、犬っころどけてやれ。」
「え?」
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