はふらふらと車内に帰った。
"窓"の外は見たくなくて、ただただ疲れては赤い座席に小さく丸くなって横になった。
明日になれば、誰か見つかる。
『帰れない。』
ダオスのあの目。
(私をかわいそうだと思っている。)
腹立たしかった。でもなぜかな、あの目はとても私を見下していて、でも同時に彼自身をも哀れんでいた。
(不思議だ。)
なにがだろう。だれもいない。なんだか思考は空白で、自分の中ですべてが静止してゆく音が聞こえるような気がした。
もう外は真っ暗で、街に明かりはない。車内も真っ暗だ。空には星すらない。
ただそれでもはうつろな思いで横になり続けていた。
夢ならいい。早く眠れば目が覚める。
目は冴え冴えとして、暗闇に目を凝らす。酷く怠惰だ。

こつんと足音がした。
でももうそれにすらの心は動かなかった。ぼんやり、ああ誰か来た、と考える。足音はゆったりと大きな歩幅で、の前で止まった。この暗闇で見えるのか。はふっとわらった。
「言っただろう。」
深く、低い、厳しい声だ。おそらくどこまでも正しい声だ。
はぎゅっとまるくなる。このままどこまでも小さくなって、ぱちんと消えてしまいたかった。
大きな手のひらが、に振ってくる。ぼんやりのその体は青い光に透き通って発光していた。なんて大きな手のひら。は泣きそうになる。
、つれてゆくぞ。」
その手は驚くくらい冷たくて、ただただ雪の中変わらずまっすぐに立って待っていてくれたんだろうと思って、はどうしようもなくその手に縋ってわんわん泣きたくなった。金の髪が、目にしみて目にしみて仕方がなくてはまた抱きかかえられて、そのままほんの少しだけ。


10.星明りの髪

20070412