ざわざわと梢が揺れる。葉を透かして、緑の木漏れ日が積もる。うっとりと堆積して、やさしい光になる。
この時代の樹は、まだ生きている。やさしい呼吸をして、命を吐き出している。
まだ辛うじて。
ダオスは樹を見上げた。枝葉の隙間から照る緑色した日光に涙が出そうだ。
しんではいけない、強く思う。
我が父我が母我が肉我が大地我が故郷我が星我が民すべてのいのちのため、この樹は死んではならなかった。そしてこの星の命のためにも。この樹は生きなくてはならなかった。
その隣で、がぽかんと大樹を見上げる。なんておおきなおおきな。
言葉も出なかった。幾星霜の年月を経て、石のように石化した幹の太さ、そのごわごわとしたぬくもり。
海鳴りのような、枝葉の風に擦れる音。音の波に包まれるようだ。覚えてもいないのに、なんとなく胎内を彷彿とさせられる。いのちのうまれるところだ。そんな気がする。
「おおきい。」
の言葉はあんまり子供じみていて素直で、ダオスは目を閉じて少し笑った。
木の葉がさらさらと、笑うように揺れる。
「おおきい。」
もう一度が言った。その目が輝いて、頬はつやつやと赤く光っている。ダオスはほんの少し驚いて目を見張った。その目の光が、緑を映してあんまりきれいで神秘だったのもあった。
「すごい!すごいね!」
内緒の話を囁くように、が叫ぶ。
が両手を広げて肺いっぱいに緑の光を満たした。呼吸するたびに、うまれかわるような気がする。大きな存在、ちっぽけな自分。けれど、とても同じ命だ。同じ大地に立っている。生きている。
「生きてる!私と一緒!」
本当に嬉しそうに、頬が赤く輝いた。ダオスともね!とが笑う。それにダオスは、なぜかな、少し泣きそうな気がした。自分でもよくわからないけれど。
は生まれて初めて、こんなにも大きな樹を見た。目の前にして、とても、この樹が呼吸しているのを感じて、そして気がついたことに自分でもわかるくらい、興奮していた。大きな樹と、この星から言う異星人、この次元からいうと異界人。まったくどれも違う生き物なのだ。でも、同じ場所で、生きてる!それはの胸をとてもうれしい響きで打った。
不思議だ、でもなんて素敵だ。は思い切り息を吸い込んだ。
ダオスがそれを、目を眇めて見る。なぜかな指先から緑の光に解けそうに見えた。とても同じ生き物にみえたのだ。
もちろん違ういきものだけど、とても同じいのちという単体に感じられた。
どちらも生きている。それがよく見えたように思った。
「大きな樹だね!」
が声をたてて笑った。ダオスも少しほほ笑む。
「大樹カーラーンという。」
『ユグドラシルと、この星の者は呼びますね。』
美しい声が、それに被さる。ダオスは少し驚いて、梢を見上げた。は目をまん丸にして、同じように見上げている。
見上げた先で女神が笑った。
『初めまして、異界の子。貴女の名は?』
普段よりなんだか嬉しそうに見える、それはそれは美しく透き通った優雅な微笑で。
13.大樹
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