「お前にできることはない。」
心底呆れて(その行動力に感心はしたけれど。)そう言ったダオスは、またその自らの台詞を後悔することになった。
そう言った途端、の目からぼろりと、おおきなおおきな涙の粒がこぼれたのだ。
率直で客観的で至極事実を述べただけだったのだが、どういう思いでが、私になにか大樹を助ける手助けをさせてくれ、と言ったのか思いやれば、事実はやさしい言葉ではなかったのに気づく。しかし、実際ないのだから、優しい言葉に換えようがない。だからダオスは、どうすればいいかわからなくて硬直している。
はで、思わず泣いたことが悔しくてぎゅっと口を結んで固まっていた。涙はたったの一粒にとどめたが、それは彼女の目玉くらい、あんまり大きな一粒だった。ダオスが困って固まっているので、は申し訳ない思いでいっぱいだった。
そもそもダオスに、端から頼りすぎた。なにかしたいなら、自分でさがさなくては。
ダオスに尋ねてすぐに、はそのことに気がついてしまった。
すでに彼には、衣食住を助けてもらっている。これ以上は駄目だ。の手伝いはきっと手伝いにすらならない。改めては申し訳なく思うと同時に、ダオスに感謝しなくてはと強く思った。
自分の頭の中で一気にそれだけ考えると、は勢いよくダオスを見る。そしてできる限りちゃんと笑った。(そしてそれは成功している。)
「わかった、ごめん、ありがとうダオス!」
そういうとはくるりと踵を返して、部屋から出ようと扉に手をかけた。
今度はダオスは、その変わり身の早さを計りかねて硬直している。
振り向きざまにはもう一度、ちゃんと真剣な目でダオスを見た。
(なんかやっぱり魔王ってかんじじゃないよなあ。)
固まっているダオスは、正直に言えば少し、かわいい。はこっそり頭の隅でほほ笑んで、でも真面目にダオスを見る。
「私は私なりにできること、探してみる。だから、ダオス。本当に気にしないで。」
それにダオスがゆっくりとぎこちなくではあるけれど頷いたのを確認して、はわらう。
「ダオスはダオスのやらなきゃいけないことに集中しなきゃ。」
ダオスがもう一度頷く。
扉を閉めて、は大きく息を吸い込む。そして高い高い天井を見上げてむんと胸を張った。
「探すぞおー!」
なにか、私にもできること!
頭の奥でマーテルを思いやった。きれいなひと。私にありがとうと言ってくれた。
だから、探そう、とは思う。どんなに小さくたってかまわないから。
大きな声が扉の向こうからばっちり漏れてきて、ダオスはどっと疲れを感じて机に手をついた。(なんだったんだ、けっきょく!)
16.そんなおんなのこ
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