その晩ダオスは夢を見た。
緑の草原。真っ青な空。世界の終わりはこんなにもきれいだ。
海鳴りのように鳴る草の中で、が立っている。
風はとても酷く強い。風の先を見やって、が少し笑う。雲がぐいぐい流れていった先を見やって。黒い髪が風に舞う。同じ色の目が、じっと遠くを眺めている。
なぜだかダオスは、つい声をかけそびれて立ち尽くした。
ざやざやと鳴る草原。はダオスに気づかない。
大きな星が、頭上に垂れ込めている。
懐かしい形、我が故郷。
がそれを見上げて笑っている。なんともなしに振り返ったその目が、青く光った。
(星の色をしている。)
はダオスを透かして、地平線を見ているようだ。
そのずっとおしまいを眺めて、が叫んだ。
「さようなら!」
さらさらと手を振る。笑顔の輪郭が風に流れてゆく。
それは誰に向けての言葉だ?ダオスは目を見張った。さようならと、優しくほほ笑むに。
「さようなら!」
(それは、)
緑の梢が、空中包むように大きく忽然とざわりと鳴った。
(あれは終わりの夢だろうか。)
ダオスは少し目を擦った。酷く疲労している。人間たち。たった六人に、ダオスは酷く追い詰められていた。
そのうちのひとりに、一時であれ大樹が救われたのも、そのうちのひとりに、なぜだか自分を重ねて見るのもダオスにはどうしようもないことだった。彼らとはあまり戦いたくはない。
彼らは強くひたむきでそして、
(悪がなんであるか知っている。)
「…こころ。」
小さく小さくダオスは俯いた。長い金の髪が、慰めるようにダオスを覆う。
いつのときも、共にあるものだ。人は、生物は心を切り離し生きることはできない。しかしそこに、暗くおぞましい闇は集う。それは連鎖して、増殖し、やがてすべてを呑み込み腐らせる。
空間が大きく振動している。じきに彼らが来るのだろう。
顔を上げたダオスに、表情はない。その目が決意に、静かに燃えているだけだ。
(そうだ。)
なんとなく思いついて、ダオスは城を歩き始めた。
、お前に、話をしよう。故郷の話を。
の顔が目に浮かぶ。(さようなら!)ほほ笑んでいた、ひとりぼっちの娘。
実りを手に、星へ帰ったら。
そうだな、その後は。とダオスは考えてうっすらとほほえんだ。
の次元を、探しにゆく。それもいいだろう。きっとおもしろい旅になる。
「…。」
「あ、ダオス。おかえりー。」
が笑った。つられてダオスも、ほんの少し。
20.話をしよう君の話を
20070422