飛び出してきた少女に目を見張った。
だってこの暗黒の城にあまりに不釣り合いに彼女は華奢でそして普通の少女だった。変わった格好をしてはいるが、黒い髪黒い目、ダオスが倒れたことに取り乱して泣き叫んでいるただの少女だ。
「ダオスダオス!」
悲鳴が心臓に刺さる。
ああけれど頭上のあの星でも彼女と同じように何百何万の人間が嘆くのだろう。自らの確定された死とこの男の死に。ああ、という少女の嘆きが、クレスの心臓を握りつぶすような気がした。
「、さん…?」
ミントがやや呆然として呟いた。それに、クレスが、アーチェが、少女とミントとを見やる。
確かに、あの夢の少女だ。ミントはかすかに頷いてみせた。
その小さな小さな声に、が顔を上げる。真っ黒な目玉を、静かに静かにミントに向ける。ミントは思わず、あとずさった。
「…ミント。」
ゆめじゃなかったんだね、とがうっすらと息を吐き出してわらった。
彼女がこの状況でほほ笑んだことに驚いて、ミントは思わず言葉を失ってしまう。は実際諦めたようにわらってみせた。ダオスの服を子供のように握ったまま。
そうしては、ゆっくりとクレスたちのひとりひとりの顔を順々に見渡した。
そのどれもが、苦く歪んでいるので、はまたどこか胸の中心が軋むような音を聞いた。そんな顔をするならしなければよかったのに、だなんて手遅れなことを思う。そしてその考えに笑ってしまうのだ。
「お前はなんだ?」
チェスターの声は存外冷たく響いた。それにがおどろくほどきれいに、うっすらとほほ笑む。
「出ていって。」
その言葉にミントがはっと首を竦める。それにが、困ったように目じりを下げた。
「ごめんね、ミント。あなたが大樹を助けてくれた。それには私もダオスも、とても、感謝してる。」
でも、と言葉を繋いでが全員を眺めやる。がらがらと、どこか遠くで城が崩壊を始める音が聞こえた。主をなくし、そして今、城は空間の揺らぎに耐え切れず崩れ落ちるのだ。
(私はすべての人間には優しくあれない。)
なにか言いかけたミントには首を振る。
「お願いだから、でていって。」
クレスが手に持った、剣を見る。それが、ダオスを、滅ぼしたのだ。たくさんの命とあいする星の未来を担っていたこの男を。(それは、かれらも、同じこと。ああ、だけれどだけれど。)(私は、彼らを、知らないもの。)
「ほしごろし。あなたたちが、どちらのほしも、ころすんだ。」
言った直後に自身死にたくなるほど後悔してしまう、そんな言葉を吐いて。
ごめんなさい、崩れるように笑って、顔を覆ったを、だきしめてあげたい、ミントは強くそう願ったのだけど、(そのままもろもろと崩れてしまいそうで)ふたりの距離はあんまり遠くて、崩れるぞ!というクラースの声に、どうすることもできなかった。
24.Have mercy on the one you have anointed.
20070428/
聖書の言葉です。
無宗教人ですが純粋に歴史的書物としてとても興味深いと考えています。