がらがらと崩壊し続ける音が、ふと止んだ。それに気がついては、泣きはらした顔を上げる。
辺りは真っ暗だ。城はとうの昔に崩れ去り、ふたりは歪んだ時間軸に浮いているのだった。
ここがどこなのかということ、自分がミントたちに対して口走ったことと、それから冷たくなってゆくダオスとが悲しくて恐ろしくて仕方がなくてもうにはどうしようもなかった。
「マーテル、マーテル。」
無意識に名を呼んでいた。だって本当に、どうしようもなくて。とてもとても無力だった。ダオスはみるみる冷たくなる。くちびるが乾いてひび割れてゆく。
「ファーストエイド…ファースト、エイド!」
ふよん、と小さく浮かぶ蛍ぐらいの光に泣きたくなる。まったくなんの役にもたたない。ということは、いままでが毎日毎日大樹にファーストエイドをかけてきたのも、すべて、無駄だったのだろうか。
いちどすべて失われ、そしてまた積み上げたものがの中で、今度こそ完膚なきまでに崩れていくような音がしていた。
「ダオス、ねえ、…  ああ、  だれか、マーテル。」
。』
厳かな、優しい声がした。
、五百年後へ。』
マーテルの声が、真っ暗な空間に響く。
「ごひゃく、ねんご?」
『そうです、。そこからさらに、500年後、彼らが紡いだ未来へ。』
遠くで小さな光が瞬く。緑色をしたやさしい光だ。
彼ら。赤いマント、金の髪の青年。やさしいミント。睨んでいた、あの凛とした青い髪の青年。ピンクの髪の、女の子。分厚い本を片手に、帽子を被っていた男性。リボンのかわいい、ポニーテールの女の子。
彼らとは、彼らのことだろうか。
(やさしいひとたち、なんだろうなあ。)
ダオスの脇に手を入れて、そのままずるずると引きずるようには歩き出した。光のほうへ。
優しいひとたちなのだと知っていながら酷いことを言った。彼らの紡いだ。
「みらい。」
光に飛び込む。緑の光。風が吹きぬけた。
暗闇を抜ける。
ざわり、大樹が鳴った。
「…ここは。」
緑の光と命に溢れていた。



25.嘆きの谷を歩むとき




20070428/
聖書の言葉