『さあ。』
マーテルがその細い手を掲げた。光が筋になり束になり絡み合い縺れ合ってひとつのおおきなうねりへと変化してゆく。それはとダオスをそおっと押し上げると空へ飛び出した。
『さようなら。』
そんなマーテルの声を聞いたような気がしたけれどそれもあっという間に遠ざかり、空の青に視界が満ちる。それも瞬きする間の一瞬だ。暗い宇宙冷たい真空幾千万の星々と宇宙気流、スターダスト。
は飛んだ。光の粒子になって宇宙を。凍えるような夜を渡って。
太陽に似た星に照らされる、白い星が眼前に開ける。
(これが。)
ダオスが小さく息をした。
デリスカーラーン。
ぽっかりと静寂(しじま)に浮かんでいる。
それはいつだって、彼の願いで誇りで愛で使命で祈りで大切で重圧で責任で義務で希望でいのちだったものだ。
(もうすぐつくよ。)
は少し笑った。実りが小さく、腕の中で震えた。


27.或る星




20070429/