終わりのときを待っていた。
民は途絶えた遠い星からの通信に希望を失い、ただただその時が来るのを待っていた。運命がその大鎌を振り下ろす時を。城には人が溢れていた。ただただ静かに、祈り、そして時を待つ。どこかで子供の泣く声がする。空には暗雲が立ち込め、ああしかしそれももう日常、彼らはただ滅びを待ちその先の安息を願う。
ふと、空を光が裂いた。
たくさんの目が、空から降り立った光の柱を驚愕の目で見る。終わりにしてはあまりにも突然で鮮烈過ぎた。
光の晴れた先に、あまりにながく待ち侘びた男の姿を認めて、人々は安堵ともつかない息を吐く。ただその男はぐったりとして動かず、黒い髪の娘に抱えられていた。
「ダオス様!」「ああ!」
幾つもの悲鳴が上がる。慌てて何人かの兵が駆け寄ると、娘は名残惜しそうに、けれどためらうことなくダオスを差し出した。その細い腕で、抱えてきたのか。少しぎょっとするが、ダオスを受け取るとすぐさま治療士が呼びにやられた。かすかだが、息はある。彼は助かる。
ふとなにか音が聞こえて、人々は娘を振り返った。
娘がなにか喋っている。しかしそれは、彼らには伝わらない言葉だった。たださらさらと音の響きだけ伝わってくる。ひどくきれいな響きの言葉だった。その意味はわからない。ただただ何かを、切実な表情で訴えようとしていた。
「あなたは、」
近づこうとした兵を、娘は手のひらをやんわりと突き出すことで制した。その目がほほ笑む。
『Ne tuez pas d'arbre.』
「え?」
『Ne perdez pas de vie.』
娘の腕の中から、光が溢れた。誰もが思わず目を見張る。目を射すような、光ではない。優しくその目蓋を塞がせる、蜃気楼のように揺らいだ光。これが、終末か。
『ダオス!C'est Au revoir!』
娘が笑った。それだけは光の中なんとなくわかった。
一瞬幻がよぎる。草原、青い空、そして。(これが世界のおしまいなのか?)
28.C'est Au revoir.
20070429/