緑の木漏れ日の中にダオスは目を覚ましました。
やわらかい光が、ちらちらと顔に落ちて、なんだかしあわせな夢を見ていた気がしました。
なんだろう。不思議な心地がする。
ダオスは辺りをゆるりと見渡します。空気が眠る前とまるで違うのではないかと思いました。それの粒子のひとつひとつが、意思を持ちさいわいの歌でも歌っているかのようです。しんと静かなのに、優しい囁きに満ちています。
(あたたかい。)
なにかが彼を包んでいるのでした。ダオスは緑の光に手を伸ばしてそれを手のひらで転がしてみました。
なんてきれいなのでしょう。
見とれるうちに、さらさらと、笑うような声が梢から降ってくるのに気がつきました。
ダオスは軋む体を横たえたまま、ゆっくりと顔をあげます。
なんて優しい日差しだろう。なんて美しい緑だろう。
『ダオス。』
よく知った声でした。
あまりに待ちわびた、優しい優しい声です。
老人の白く石化した頬に、少女の手のひらが添えられます。
ダオスの目は、緑の花冠を頂いたの目を見ました。
お互いに、ふたりは心の底からほほえみあいます。
(帰ってきたの。)
(まだあの続きを言っていなかったものだから。)
32.さようならの続きを
20070429/