どれくらい経ったんだろう。

もう小一時間はベッドの端から端までをごろごろと転がり回っていたようだ。(結構広いなこのベッド…。)
でも本当に、この場にダオスが帰ってこなくてよかった。
頭を抱えてうめきながらのたうちまわる姿など見られようものなら。
(確実に命はない…!)「危険だ…!危険すぎる!」と叫んで勢いよく起き上がったところで、扉が勢い良く開いた。 ダオスだ。
危なかった…!とが本気で胸をなで下ろす。
あと一瞬、彼が扉を開けるのが早かったら。命はない、だ。
ただまだ頭を抱えたままだったので、さっと手を下ろすとベッドの上に正座する。

「来い。」

ダオスは慌てるよりももっとなにか焦ったような、いや、なんだか複雑な表情での腕を掴むとそのまま強引に歩き出した。

「えっ、ちょ!」

殺されるのだろうか、真っ青を通り越して白くなったを、ちらとだけ見下ろして、ダオスはそのままずん ずん進んでゆく。高い背の通りその歩幅は大きくて、引かれる腕が痛い。
部屋を出ると暗くて広い石造りの回廊 が延々と続いて、ああここは本当に知らないところなんだ、と息が詰まった。制服姿のはソックスしか履いていなくて、冷たい石の温度が足に痛い。

死ぬんだ。殺される。
そう思ったらもうの両目からはぬぐってもぬぐっても涙が止まらなく溢れた。
それでもこんな時なのにの意地 っ張りは直らないらしくて、声を上げないように口を結びながら、ダオスが振り返らないように必死にその足について走った。

死ぬんだ。このままこの人に殺される。 (それはいやだ。)
涙でぐしゃぐしゃになった顔では思った。 (隙を見て逃げられないかな。…無理かな、強そうだし。ああでも無理でも一発ぐらいは殴れないかな。)
先のダオスの発言に比べれば比較的穏やかだが、やはりそれでも物騒な考えをが巡らせた時に、ダオスが突然ふりかえった。
の、涙でボロボロの不細工な顔を見て、またあの複雑な顔をした。

(…ああ。)

いつだったか。こんな顔を見たことがある。 (いつだったっけ。)



05.むかしむかしのつい最近



20070330