「行ってみればいい。」
突然かけられた言葉にはびっくりして顔を上げた。その目に涙はなくて、ダオスがすこしほっとしたことをは知らない。
「行って確かめてみればいい。だが、」
わかっているな?とダオスは続けた。お前は帰れない。
ここにあるのに?おそるおそる窓の向こうへ手を伸ばして、ちゃんとそこに空間が存在していることを確かめたにダオスはうっすらと寂しげにほほえんで、行けばわかるだろう、と言う。
ひとりぼっちの小さな生き物、が、ためらったのは一瞬で、縋るような必死な顔をして、窓の中へ飛び込んだ。ちょうど人一人が通れる大きさの窓は、どうも地面に開いていたらしく、今までたっていた雪原と、飛び込んだ世界の上下のギャップにがぎゃあと叫んでいる。水泳の飛び込みの要領で、横とびに飛び込んだはずなのに、天井に向かって飛び上がったのだ。誰だってその差に戸惑う。どたん、と騒々しい音がした。
するとひょいと、の顔がダオスから見て真上から逆さに覗いた。おそらくからは、ダオスは床下に、平行に立っているように映るはずだ。なんとも奇妙な、酔いそうな感覚だった。
「なんだか大丈夫みたいなんですけど。」
が不安を残しながら、でも嬉しそうに笑う。ダオスはこのかわいそうなひとりぼっちの生き物に、なんと言えばいいかわからない。
「。」
だから初めてその名を呼んだ。エルフとも母星の人間ともこの星の人間とも違う、時空の違う人間。ちがういきもの。
「その地に留まるのもいいだろう、お前の自由だ。だが、」
が不安げに首を傾げる。
「帰れない、と私が言った意味がわかったら、ここへ帰って来い。」
「…どういうことですか?」
なにを言っているのか、ダオスも余り考えなかった、ただ、この世界にひとりぼっちのは、この星にひとりぼっちのダオスには、とてもとても哀れに思えたのだ。彼自身のように志を、目的をもって来たのではない。
確実に不幸な事故で、目的も意志もなにもなく、時空すら超えて世界から吐き出されてしまった。
それはこの宇宙をたったひとりで彷徨うよりも、きっとずっと孤独なことだ。
なんとなく、その彼女の無意識でまだ無自覚の孤独を、彼は自分に重ねた。そして自分のそれよりも濃いの孤独の影に、正直に同情したのだ。自分がおそらく永遠に孤独であろうと自覚した瞬間の、の思いはどんなものだろう。ひとり世界を離れ戦いの中にあるダオスにすら量りきれなかった。
そしてなんとなく、そこまで思いやったとき、ダオスは初めてこの地の人間に触れた頃の気持ちを思い出したのだ。
この未発達で素朴な人々がいとおしかった。実りの代償として、という思いだけではなく、彼らの力になれればと思えた。
そして自分より遥かな孤独に身を置くの立場を、把握説明できるのはこの星におそらくダオスだけだろう。それはなんとなく、義務にもにた思いを彼に抱かせた。
「ここへ帰って来い。」
ダオスはそれだけ言って、自分でも気づかないほど、ほんの少しわらった。
08.五千光年の孤独
20070412