空は高く湖は澄んだ紺碧。 汀の森は葉を幾枚も重ねて翡翠が透けるように輝いている。秋空に流れる一筋伸びた白雲は、竜の鱗の形。 空気も青い硝子のようだ。 山も錦の袂を広げ、さながらいにしえの絵巻模様。紅(くれない)と山吹、茜と蘇芳。空には百群、遠くの山は群緑を持った錆びた紫。雁がゆくのは南の空。流れ流れてどこへ、どこへ。絡まりあう雑木林の木々の群れ群れ。紅葉と銀杏は唐紅の綾錦。冬を前に、なんと豪華な森の化粧か。ご覧ぜよ、ご覧じろと言って、色も動物もみな眠る冬の前の栄華を誇る。 秋の森はすべての色を包括している。隠すこともなく惜しげなく晒している。見て。見て。これが秋の色、これがすべて。 その中を白馬がゆく。 湖岸の玉砂利敷き詰めた、白と硝子の砂を踏み。蹄の下でカラカラと、玉の小石がこすれあって丸くなる。水面を流れてゆく雲、小さく泡だって漣がさやぐ。馬の毛並みは季節を間違えた雪のごとく白く、白く。赤の中ぽつりと目立った。駆けた跡が光るように白く残る。風に乗って遠く届く。 気持ちの良い風が吹いていた。 馬もそれを駆る人も、その吐く息はわずか白い。男は眼帯で右目を隠している。風に吹かれて少しまくれあがった前髪の下に、いかつい雰囲気のそれは見え隠れする。 男の黒と青を基調にした服装は、南蛮の雰囲気混じりで少し不思議な感じだが、よく似合った。腰には立派な刀を三対差していたが鎧兜の類は身につけておらず、彼の身分を知るものならば、驚くほどの軽装だ。今頃彼の部下が、その名を呼んで城中駆け回っているだろうに。そんなこと知ったことではないと、悠々と馬に跨り彼はここにいた。 穏やかな秋だった。 確かに庶務机で一日を潰すには、もったいない日和。 湖はどこまでも限りなく青く、水辺へと迂回して降りる崖沿いの道を馬がゆっくりと進む。彼は名を、人呼んで奥州独眼竜――伊達政宗と言った。 |
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