包みを差し出してやると、年不相応な無表情をふにゃりと崩して子供がわらったので、彼は柄にもなくちょっと和んだ。なにせこの子供、美しいのだが表情がなさ過ぎて、いっそ能面のようで少し怖いのだ。おまけに少し、顔色も悪い。ちゃんと食わせてもらってんだろうな、と口調はヤクザだが心はおかん、小十郎がジッとお河童頭を見下ろしていると、視線に気づいたのか袂に包みを仕舞おうとする手を止めて子供がコトリと首を傾げた。 それにハッとして、なぜ若衆に任せてもいい菓子を包むなどと言う作業を自ら請け負ったかを思いだし、小十郎は右を見、左を見、そられから辺りに気配がないことを確認して、子供の前に腰を下ろした。 「…おい、譲ちゃん。」 「はい?」 右の手の甲を口端に寄せて、完全に悪い内緒話(おまけにヤンキー座り)の体制であるが、身長差的にこれくらいでちょうどいい。 首を傾げる子供にズズイと強面を寄せるも、この子供、ビクともしない。なかなか肝の据わった良い子であると判断し、彼は低い声をさらに潜めた。ちなみに少し危ない大人の構図になっていることになど気が付きもしない。 「様のことなんだがな。」 それにぴくりと子供が肩を震わせる。 「いやなに、政宗様ときたら恥ずかしがってちっとも教えて下さらないんでな。しかしこう、なんだ、家臣として、右目として、やっぱり知るとこ知っとかねえと、な。」 わかるだろ?と囁くと、子供は「まあ…。」と曖昧に相槌を打つ。 「しかし政宗様がお話していないことを、私が勝手にお話しするようなことはできません。」 なんという優秀なお返事だろうか。 小十郎はこの童子のしつけと教育の行き届いていることに内心感嘆しながら、同時に侮れない、と判断する。子供だと思ってかかってはならない。これは小さいながらに、立派なとやらの御家来だ。鋭さの増した眼光に怯むこともなく、まっすぐ立つ様子は幼いながら立派なものである。むろん、菓子で買収などという不正な行為が通じる相手ではないだろう。 子供とみて侮ったわけではないが、率先して菓子を包みに席を立った自らを小十郎はほんのちょっとだけ恥じる。 「わかった。でもな嬢ちゃん、」 「…翡翠です。」 まっすぐ背筋を伸ばして子供が言う。 「私、翡翠です。」 いい目をする。 その眼差しをまっすぐ受け止めながら、うんと彼は一度頷く。 「俺は小十郎…片倉小十郎だ。翡翠殿、」 「はい、なんでございましょう。」 戦場のような緊迫感であるが、よい緊張感が漲っている。 「様はよい方か。」 その質問に一瞬肩透かしを食らったように目を丸くして、しかしそれから子供はしっかり、小十郎の目をみて頷きながら微かに笑ったのである。 「それはもう。」 その答えだけで十分だった。 *** 「………。」 「あっれーどうしたんスか隊長!暗い顔しちゃってえ!」 「いや…ちょっとな…。」 「ほんとに顔色悪いっスよ!医者を呼びましょうか?」 「おーい誰か〜!」 「いや、いい!いいから!マジでいいから!!!」 「じゃあどうしたんスか?」 「言うなよ…?」 「う、ウス。」 「誰にも!言うなよ…!」 「ウゥス!」 「小十郎様が……、」 「小十郎様が?」 「ろりこんかもしれん。」 「はああああ!!?」 政宗様に本命出現疑惑(ほぼ確定)に引き続き、小十郎、ろりこん疑惑浮上。伊達城は今日も元気に炎上しています。 |
(20120624) |