ずぶずぶずぶずぶ。
沈んでゆく。緑の光を、沈んでゆく。
は一生懸命目を開いて、その底を見つめようとした。水よりも粘度の高い魔光の中では、楽に身動きはとれずただ沈んでしかない。あとは運任せだ。
けれどもには、絶対にセフィロスのところへ出る自信があった。エアリス、あの子がきっと導いてくれる。
心をぴったりと閉ざしてたくさ んの声に耳を塞いで、は沈む。

もう息が続かない。そこまで来た時だ。ゴボリと足が魔光を抜けた。空気のある空間がある。
ついたのだろうか。そのままべしゃりと全身が魔光から飛び出ると、目の前に、いた、セフィロスだった もの。まだそれは生きていて、ほとんど人型にまで退化していたが、片翼だけ、そのせなから伸びている。その羽もぼろぼろで、すっかり弱っているというのに、ライフストリームはそれを避けて地上へ溢れ出ていた。それほどに、これはこの星に受け入れられないものなのだ。
はなぜだか悲しくて、少しほほえん だ。
(なんて遙かな孤独だろう。)
がゆっくりとセフィロスに近づく。彼は眠っているに違いなかった。力 を蓄え、きっとまた戻る。の刀はとっくにライフストリームに流れてしまったし、その首を絞めてそれを終わらせることもできたかもしれないけれど、そうしようは思わなかった。
だってこれは、セフィロスだったもので、遥かな孤独を生きるひとりぼっちの生き物なのだ。
セフィロス。は思う 。もういいよ、もういいよ。このまま、このまま、眠ってしまおう?
子供を抱きかかえるようにして、セフィロ スを膝に乗せてその頭を抱え込む。手のひらで閉じられた目蓋を塞いで、優しい暗闇を作った。そのままぎゅっと抱えこんで目を瞑る。の髪がセフィロスの髪に垂れて、緑を映した銀に黒が混ざる。とても神秘な映像 だった。

「もういいよ。」
歌うように囁くと、トロリと魔光が垂れてきてふたりをくるんだ。今度は抵抗しなか った。肺の中までやさしく魔光が満ちる。蜂蜜のようにトロリとして、水のように清らかで冷たい。
(噫。)
あ っと言う間に意識は拡散する。けれどはほほえんで、最後にぎゅっと抱えた腕に意識を集合させた。そのまま体は固定されて、の思念がきらきらと光の帯となってその腕にまとわりつく。
おやすみセフィロス。 囁きながら、光はずっとその腕を守っている。
ふたりの体を、ライフストリー ムが押し流してゆく。もっと、もっと深く。静かで、穏やかな、波のない静寂(しじま)へ。
おやすみおやすみとたくさんの手のひらで囁きながら。
(おやすみなさい。)
(噫どうぞこの星の最後まで。)
20070407