窓際の席に座って、少女が何かを口の中で呟いている。黒い双眸は夢見るようにどこか遠くを眺めており、頬は真っ白に透き通っている。昼休み独特の浮かれた喧騒。ざわざわと落ち着かない陽気な空気だ。明るい教室の中、少女だけが異質な、不動のものに見える。 どこからかひそやかな、少女たちの話し声。 「ちゃん、最近なんだかこわいね。」 「ずーっとさぁ、授業中も、食べちゃうの、みんな、みんな食べちゃうの、ってずーっと、ずーっと言ってるんだよぉ。私、怖くってぇ!」 きゃーっと声が上がって、しかしするどく発された、聞こえるよ、とたしなめる声も、しかし少女には聞こえないらしい。上の空で、窓の外を見ている。 「今朝から、ずうっと“ああ”だよぉ。」 ことさらに声を潜めて、教室の一番後ろの集団で、一人が肩を竦める。 「顔色も悪いし。」 「どうしたのかな。」 授業中、当てられても「わかりません。」「聞いてませんでした。」の繰り返しに、教師たちも驚いていた。普段少女は、大人しいが朗らかに笑う、普通の、成績も良い特に問題のない生徒の内のひとりだったからだ。三日ほど前から体調が悪いのかぼうっとしている様子がたびたび見受けられたが、しかしだんだんと様子がゾッとしてきていることに誰もが気が付いていた。 比較的仲の良い友人たちが話しかけても上の空で、ついには午前中の内に誰もが匙を投げた。 「…ちょっと気味が悪いね。」 常軌を逸している。 あっと誰かが声を上げた。ふらりと揺れた頭、ガタンとするどい音。昼休みの騒がしさが、とたんに緊張を孕んで色を変える。 夜空のようにまっくらな髪を広げて、細い手足の少女がリノリウムの床に倒れる。 たべちゃうの、と微かにその口がわらった。 |
20121118 |