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.待つ雪草の花束について(春を待つ)(SN2/イオス)

 デグレアに華やかな春はない。一年中厚い雲と雪に覆われたこの土地に、訪れる春はほんのわずかでささやかなものだ。それをいとおしむように目を細めて、人は春を待つ。雪の下雪の下。ほんのわずか芽吹く緑と溶け出す氷に日向のいい匂いの夢を見る。
 ちょうどそう、こんなかんじだ。とイオスは考える。夏の後には秋が来るように春の後には夏が来るように、冬の後には春が来る。それは彼にとって当たり前のことであったのだ。むしろ彼の地では、雪が降ることのほうが珍しかった。だのにここではどうだろう。冬の後にも冬、冬、冬だ。白銀の、閉ざされた世界。頭上に圧し掛かる曇天。そこから降りつむのは綿雪のような優しいものばかりではない。
 しかし最近になってようやく、彼にも見えてきた季節があった。雪の中芽吹く真っ白な花のような、目立たないけれど確かな春だ。小さな小さな、噛みしめるようなともし火のような花のような。吹雪がだんだんと弱くなり、鈍い空が白く光る。上も下も真っ白な光の乱反射で、時折どちらが上か錯覚を起こしそうになる。それがデグレアの春だった。どこまでも白い白い、春。
 が鼻の頭と頬とを赤くして、イオスのちょうどまん前の雪の中座り込んでいる。分厚いショールを巻いた肩は薄くてやっぱり凍えてしまいそうだ。それを言うと、デグレア生まれのデグレア育ちを舐めるな、と言われるに違いないので、彼は黙っている。侍女の正装である黒い長い質素なドレスから覗く黒いタイツの足首は細くて、白のなかその線がひときわ目立った。
 はじっと雪を眺めている。正確にはそこから立ち上ろうとしている春に目を凝らしているのだ。
 うらやむようにいとおしむように懐かしむようにうれしくてしかたがないように遠慮がちに、目を眇めて微笑みながら。
 この国の人間の特性だ。とイオスは思う。ルヴァイドも旅団兵たちも、よくそんな目をする。優しいくせに遠慮がちな、まるで見つめたら壊れてしまうんじゃないだろうかと恐れているのかと思うくらい、なぞるようにそっと、春の兆しに目を細めるその動作。誰もがとても、よく似ていた。それを眺めながらイオスは不思議に思ったものだ。季節はどんなにわずかでも必ず同じ速度で再びやってくるだろう。それなのにこうして毎回毎回、彼らはわずかな春を待ち望み、あまりに短く駆け足で去る季節を惜しんでは手を振る。慣れるということはないのだろうかと、彼は不思議に思ったものだったのだ。
 しかし今こうして、待つ雪草を前に立ち竦む彼の胸はどうだろう。なぜかな、とてもやさしくてうれしくてそれでいて苦しい。切ないような、ほんの少し泣き出したいような気持ちだ。ちらちらと雪が降っている。噫やがてこの春もすぐ去る。そうしてこの地は短い夏を迎え、秋など知らずに冬が来る。そうして雪と氷に閉ざされた、長い季節を人は耐え忍ぶのだ。それはとても、とても言葉にはできない思いが募るものだった。雪のようにイオスの中に、この国は降り積んだ。そうしてそうして、それはゆっくり溶けて彼に染みてゆく。そうして彼を流れる水になるのだ。
 小さな待つ雪草が群生している。それは春の兆しだった花だった。しかしここでは、この花こそが春なのだった。それはなんて。
「帝国は花って咲く?」
 が振り返って尋ねた。その鼻はやっぱり赤くて、少しおかしいような気持ちを隠してイオスは頷いた。
 あそこはここよりずっとあたたかで港があって一年中花が咲いて雪はめったに降らずああきっと子供たちが晴れの日のデグレアを見れば歓声をあげただろう赤や青や黄色や、帝国の花は色とりどりに咲き誇っていた。春だ夏だ秋だ!あの陽射し、海の風。しかしもうそれらは彼の胸をひりひりと焼いたりはしなかった。
「ああ、たくさん咲く――」
「どんな花?」
「…説明しにくい。花の名前はあまり知らないからな。」
「これ、向こうでも咲いた?」
 待つ雪草を指差してが微笑む。どうだったろう、なんて言えなくてイオスは曖昧に頷いた。どうだったろう――きっとあちらでも咲いていただろう、だが気にも留めなかった。もっともっと鮮やかに春を告げる花がたくさんあったから。
 のくしゃみを合図にイオスは、帰ろう、とポツリと言った。「うん、流石に冷えたやぁ。」と笑うは、そういえば仕事の途中だと言っていた気がする。小一時間は潰してしまった。僕も怒られるんだろうか、いかめしい面構えの侍女長を思い出して少し顔を歪める。は足踏みをしながら、あー寒い寒いとイオスの3歩手前を歩いている。
 ふと群れからずいぶんはなれてポツリと咲いた花を一輪見つけて、イオスはそっとかがんだ。息を詰めてそれを摘む。無意識のうちに、酷く優しく遠慮がちな仕草になった。だって彼は今春を積んだのだもの。うなだれた白い花びらと太い茎を指先でつまんで、胸元に抱えあげる。はもう15歩は先に言っている。これをやったらどんな顔するだろう。少し自分の肩に薄く積もった雪に目をやってイオスは少しほんの少し目を眇めて笑った。

待つ雪草はスノードロップの和名なのですって。























2.沈丁花の花束について(金色に匂う)(SN2/ゼルフィルド)
「あれ?ゼルフィ装甲に花ついてるよ!」
 がふと声を上げたので、ゼルフィルドが自らの体をスキャンすると、なるほど確かにいくつもの小さな白い花弁が付着している。
「きれいだねぇ。」
 がそのうちの一枚を手にとって笑った。それはなにかを壊すために潜んだ先でついた花だというのに。ほろりほろりと白い香があたりにこぼれている。よく見れば淡い紅色をしたそれは、人間にはとてもよい香りと感じられる匂いを発しているようだ。が鼻を鳴らしてうれしそうにしている。終いには彼女は、ゼルフィルドの体についた花びらを一枚一枚手のひらに集めだした。
「…ドウすルんダ?」
「んー?乾かして匂い袋でも作ろうかと思って。」
いっぱいついてたね!と満足げに笑う彼女の手のひらには、片手では収まりきらないくらいの花びらが乗っている。確かによくもまあこれだけつけて帰ってきたものだ、とゼルフィルドは自分でも感心せずにはいられない。ガシャリと一度真っ黒な装甲を鳴らすと、なんだか名前も知らない花が香った気がした。
 そういえば、と彼はメモリを読み込んでいて気がつく。繁みに伏せていた時に、背の低い木が彼のすぐ傍らにあった。まるくて小さな鞠のような、あわい色をした花をいくつもつけていた。まるで彼を含む兵たちの不穏な空気など関係ないというように、明るい春の日差しの中ちらちらと光をこぼしていた。この土地では見られない光景だ。ならばきっと、この目の前の人間も見たことなどないのだろう。緑が生き生きと生い茂る春も、こぼれる花びらも。
 ゼルフィルドが立ち止まると、は不思議そうに歩みを止めた。
「どうしたの?デンチきれた?」
 最近覚えたての電池という単語を使ってみせるあたりが彼女の面白いところだと思う。律儀に、ソウ簡単ニ電力ハ切レなイ、と説明して、ゼルフィルドは重い脚部を一歩前へ踏み出した。聖王国は春の盛りだと言うのに、まだここでは雪が厚い。彼の重たい体のために、脚が少し沈んだ。その様子に、ゼルフィルドは春ダ、としみじみ思う。機械が変な話ではあるだろう。しかし雪の底がぬかるみ始めた証拠なのだ。彼の足がもたつくのは。
「ねーゼルフィ!遠征どうだったの?なんかおもしろいことあった?」
「…イオス ガ 潜入調査ノためニ 女装 シた。」
「なにそれえええええええ!笑える!ちょ!イオスーーー!!!どこーー!!!!」
 の大きな笑い声が城の壁に反射した。ああこんな様子も、春ダ、とゼルフィルドは一度視界の回線を閉じる。瞼の裏の花を思い浮かべるように。ちょうど瞬きするように。両目を眇めて春を眺めるように。

























3.荒野の花束について(連れて行くよ君を!)(SN1/ハヤト)

 。って内緒話の要領で少し肩をすくめて、彼が笑って手招きするので、は思わずアルバイトだって抜け出してきてしまった。セシルねーさん、怒ると怖いんだよなあ、と小さくため息をつきながらも、顔が笑ってしまうのは仕方がない。大分背が伸びて腕も脚も長くなったハヤトは、のペースに合わせて少しゆっくりと歩いている。窮屈そうだと、は思う。その長い手足を思い切り伸ばして動かしたいだろうに。彼の内側からエネルギーが隅々まで満ちているのが見えるような気がした。それでもハヤトはに合わせて歩く。
「いーいとこ見つけたんだ!」
 ニヒヒと笑った彼の顔と言ったら昔とちっとも変わらないので、困る。
「困るなあ。」
 思わず声に出すと、え?と彼は少し目を丸くして首をかしげた。
「何、急に。」
「なんとなく。」
「困ったのか?」
「うん。」
 変なの、とハヤトが歯を見せて笑う。つられても肩をすくめて笑って、またずんずんと並んで歩いた。しかしサイジェントの周りを覆う荒野のどこに、いったい彼の言ういいものがあるのだろう。前に一度、いいもの見つけた!と言って彼の引っ張ってきたごつい召喚獣を思い出す。まるで漬物石だった。実際トウヤが言い出すまで、誰もが妙な形の岩だとしか思わなかったのだ。連れて来たハヤトだって気がついていなかったくらい。
 そんな少し他人から一線踏み越えた感性の持ち主の言ういいとこってなんだろう。今更ながら少し不安になる。サボテンの群生地とかはやめてほしいなあ、と考えたの目の前に上り坂が現れた。乾いた土は歩きにくくて、ますます歩みはゆっくりになる。

「もうちょっともうちょっと!」
 がんばれ、ってハヤトが笑うので、「がんばりますよ」って思わずは答えた。それにハヤトが声を上げて笑い出す。変なの!って言われるの、今日で何回目だろうか。
 坂を登りきる前にハヤトが少し肩越しに振り帰ってはにかみながら、でもニヤっとわらった。腰にぶら下げられた大剣がガチャリと少し鳴って、とてもしっくりなじんでいる。とはしみじみ思う。まったく元いたせかいが遠くなったものだ。まるで前世というものがあるなら、それくらい遠いところにそれがあるような気がする。実際はまだ5年しか経っていないというのにね。おかしな話。
ぜったい見たらびっくりするとおもうな。」
 ハヤトが少し照れたように笑うのでも少し緊張してきた。
 乾いたオレンジ色の地面を見つめてさああともう少しで彼が言うところの。

後ろをこっそりナツミとかジンガとかまあつまりみんなついてきてて出刃亀してればいい





















4.ほんの小さな花束について(hapiness makes you cry)(H×H/クラピカ)

 クラピカはなぜだろう、戸惑うようにを見ていた。いつも冷静で落ち着いている。彼らしくもないことだ。
「クラピカ、なにかあったの?」
 それに彼は、え、とますます戸惑いの声を漏らした。
「なんだか落ち着かない感じがする。」
 が重ねてそう言うと、そうか、いや、たしかにそうかもしれないな、とそう言って自分の前髪に手をやると、やっとクラピカが笑った。呆れたようなはにかむような微笑で、それには少し息を止める。だって微笑む君はあまりに美しい。赤い目をした彼は、あまり好きではない、とは思う。あれは嫌だ。美しすぎて、悲しい。ぞっとするような叫びだしたくなるような悲しい美しさだ。
 でもこの美しい今の彼は好き。青い目は海のよう、照れくさそうにわずかに微笑む形に寄せられた眉はなによりかわいらしく思えた。
 こうやって君にどんどんどんどん、"普通"の表情が増えていけばいいのに。
 恨みも呪いも怒りもすべて。忘れてしまえよあの赤の向こうに置き去りにすればいい。
 いつもその一言は言えない。言ってはいけないことだから。
 クラピカは、目を細めると、どこに隠していたのやら、小さな花束を差し出した。小さな青い花だった。道端で見かけたことがある。しかし名前は知らない、そんな花。それらを幾つか摘んで、手のひらよりも小さな小さなブーケだった。
「これ?私に?」
「…花がきれいだったからな。…柄ではないが。喜ぶかと思ったんだ。お前が。」
「…ありがとう。」
 思ったより泣きそうな声がしてびっくりした。はそおっとつま先でその花を受け取った。その名を知らない自分を、酷くもどかしく思う。心が震えるのがわかった。うれしくて、それから。(いとおしい。)
 きゅっとそれを胸の前で握ってはクラピカを見た。すこし微笑んでいる彼は、やはりただの美しい少年に見える。嬉しくてもう一度花束に目をやる。小さな花束は白いリボンで――
「リボン?」
 良く見るとそれはガーゼのような素材でできている。リボンにしては、すこし貧弱だ。
 あ、とクラピカが呻いた。それにが首を傾げると、彼は観念したように少しボソボソと話した。
「…レオリオがそのまま渡すのでは格好がつかないだろうと。」
「それで?」
「……包帯をくれた。」
 流石は医者志望だ。ぷっと吹き出して思わずは笑ってしまった。なんてかわいい花束。クラピカはすこし罰が悪そうに曖昧に微笑んでいる。この花束が後々まで彼女の宝物になっているなんて知りもしないで。




















5.他人の庭の花について(欲しいものは力ずくで)(H×H/イルミ)

 花が欲しい、そう呟いた言葉に返事が帰ってくるとは思わなかった、とは目を見開いている。
「花が欲しいの?ふーん。そんなもんかな。」
  よっ、と言いながら、思わぬ返事の主、イルミが屋根から軽々と窓に飛び移り部屋へ入ってくる。
「毎度勝手に入ってくんなよ殺し屋。」
「うるさいよ情報屋。なに?は花が欲しいの?」
 ひょいと無感動に首を傾げた拍子に彼の肩からこぼれる美しい黒髪には無性に腹が立つ。短い髪を少し掻きながら、は不機嫌を隠そうとせずに答えた。相変わらずいつものこと、彼は狙ったようにの機嫌が悪いときに現れる。
「ああ欲しいですよなにせ殺伐とした毎日だもんで!で?なんのご用?殺し屋さん。」
「ん、この情報調べてくんない?」
「…こんなんゾルディックさん家なら3秒じゃないの?」
「3秒かけるのももったいないんだよね。」
 やっとその無表情に浮かんだ笑みはなんとも淡泊でかすかに意地の悪い類のものだった。やはりこの男、腹立た しい。
「お金は?」
「キャッシュで3000。」
「…そりゃあどうも。」
 3000と言っても単位が違う。自ら動くまでもない屑情報に景気のいいこと。皮肉な思いが沸くのは当然。それで もはそれで生きていける。腹は立つがありがたく頂戴し「じゃあ明後日にはデータ送るわよ。」と言って、 は窓から入ってきた殺し屋に背を向けた。

は花があれば嬉しい?」
「そうね。」
「ふーん、花、ねぇ…変わってるね。」
「…私をなんだと思ってる?」
だろ。」

「あのねぇ、イルミ。」
 は文句を言おうと振り向いた。
 しかし誰もいない。開け放たれた窓辺でカーテンが揺れている。
 なんじゃあいつは、苛々しながら窓を閉めようと窓枠に手を伸ばした。開けたら閉める、なんだってあの男は6歳児でもで きることができないのか。
 夜風はほどよく冷たく心地よかった。根を詰めてパソコンの前に座り続けていたにはちょうどいい。 深く深呼吸をして、さあ窓を閉めよう。ふいにひょっこりと、黒い目玉が逆さまに覗いた。
「ぎゃ!」
「…驚き過ぎ。」
「普通驚くわ!」
 髪の毛もブラーンと逆さにぶら下がって、彼の人形じみた美しさと相俟って相当恐怖だ。思わず後退さるに イルミは片手を差し出した。
「はい、花。欲しがったんでしょ?」
 よかったね、と無感動に投げかけられた言葉にもはぽかんとしている。それは大家さんの花壇の花じゃあないの!斜め向かいの大家の家の見事な花壇を思い出す。はい、となお差し出された花を受け取らなければいったい殺されるだろか?

























6.薔薇の花束について(階級別意識調査)(魔法学校/シリウス・ブラック)

 これは珍しい場面に遭遇してしまった。とは冷静に考えていた。目の前ではシリウスが、まさか出会うとは思わなかったんだろう。びっくりした顔で金魚みたいに口をパクパクさせている。間抜けである。その腕には一杯に薔薇を抱えていて、彼のような見目美しい少年には大層似合う絵になる光景であったが、外見天使でもは知っている、この少年の中身を。だからその光景はとてもとても笑いを誘った。
「あーっはっはっはっはあーっはっは!ちょ!ダメ!笑い死ぬー!もうそんな光景見せないで腹筋が破壊されるからヒィ〜!」
「ばっ!な!笑うなよ!」
「だっ、だってシリウスそんな馬鹿みたいに大量に薔薇抱えてウケる!」
 実際その薔薇の量は半端なかった。シリウスが長い両腕で抱えても一杯一杯で、最初は薔薇の塊が歩いているのかと思ったくらい。
 真っ赤な薔薇の陰に隠れて、シリウスは耳まで赤くしている。その耳に光っているシルバーのピアスの冷たい色が、とても不釣合いに見えて、はますます笑ってしまった。
「いい加減笑うな!」
「これが笑わずにいらいでか!またこの似合いっぷりが笑うー!ジェームズー!ここに!ここに歩くネタが!」
「ネタにすんな!」
「後世まで語り継ぐよ!」
 ああ苦しい、と目じりに涙すら浮かべてわらうに、やっとシリウスはいつもの不適な笑みをこぼした。しかし、それには気がつかなかったし、まだ耳は赤いままだったのであまり様になっていなかった。
 シリウスが薔薇を抱えたまま一歩前進する。はまだ笑っている。
「…ああそうか語り継げばいい、存分にな!うりゃ食らえー!」
「ぎゃああ!」
 頭から薔薇を被ってが叫ぶ。棘は綺麗に処理されていて怪我をすることはないとはいえ、薔薇の葉っぱはチクチクと痛い。真っ赤な薔薇の洪水に埋もれて、は、なにすんの!と薔薇もったいない!を叫んだ。だっていかにも高そうな、ベルベットのような美しい赤薔薇だったのだ。
 シリウスは得意気に仁王立ちになって、薔薇の山に埋もれているを見下ろしている。
「俺を笑った罰だな。」
「罰は神様が当てるもんでしょうが!」
「予定は狂ったが、まあ。いやー満足。」
 満足のようだ。
「じゃあな!」
 勝手に満足し彼は去ってゆく。ちょっと待て、この薔薇の海どうしてくれるんだ!まだその中でもがきながらが何かしら叫ぶと、もう大分遠いところまで歩いていっっていたシリウスがくるりと振り返った。ニ、と口端を持ち上げて笑ったのが、遠めにも良くわかる。
「いいんだよ最初っからお前にやる予定だったからー!」
 もうちょっと劇的なかんじで!
「マジでか。」
 ああとりあえず大笑いしだすのはシリウスが完璧に見えなくなってから。(この薔薇売ったらいくらになるかな!)

俺様ヘタレシリウス。






















7.ノエルの花束について(MERRYMERRY!)(魔法/リーマス・ルーピン)

 雪を踏み踏みリーマスは歩いた。町中がうきうきしているので彼にもその気配が移るのだ。ショウウィンドウに映った自分をふと眺めると、そこには背の高いひょろりとした男が立っている。着古されたコートは、いつだったっけ、が誕生日にくれたものだ。自分があんまり長い間父親のお古を着てたもんだから。それもすっかり草臥れて、いい着古された質感を出している。赤いマフラーはやはりもう派手だっただろうか?少しそんな思いが掠めるけれど気にしないことにする。だって町は色とりどりの洪水だ。その中でおじさんが真っ赤なマフラーを巻いていたって誰も咎めたりはしないだろう。
 後ろで軽く突っぱねた鷲色の髪は毎日寝癖がたくさん付いているから。うっすら傷の残る顔を ニ、と一度笑みの形にしてリーマスは目を自分から離す。自分の顔の目の下にうっすらとある草臥れたようなしわはあんまり気に入っていない。
 足元に目を落とすとこれまた履き潰した先の少し角ばった革靴が雪の中で寒そうにしている。
 もういちどリーマスは窓ガラスを見た。片手には一抱えもある大きなプレゼントの箱、リボンつき。そしてもう片方の手にはバスケット。パンととびきりのワインとそれから。準備は多分できうる限りの範囲内で完璧だ。
 さてそこでリーマスは、また雪をキックキックと軋ませトントンと踏み鳴らして歩く。大きな歩幅で一歩二歩三歩!クリスマスの親子連れが通り過ぎる。子供のはしゃいだ声。ほほえましい気持ちですれ違う。

 生憎と彼には共に祝うべき両親はもうない。そして親友と、その仲間達も。まだまだ若いのに困ったことだな、と彼は一人で苦笑する。
 やめようこんな日に彼らのことを考えるのは。彼らも大好きだったこの日、彼らを湿っぽい語り口で語るのはいけないことだ。語るならクリスマス、どんなすばらしい魔法を使ったかとか、誰かが告白に失敗したっけとか、そんな楽しい思い出話に、君達がいないから僕はなんの気兼ねもなく恋人と楽しいクリスマスを過ごせるんだよなんて憎まれ口だけするべきだ。彼女だってきっとそうだろう。初めてリリーが、クリスマスはジェームズと、って言い出したとき、彼女が口にしたのとおんなじ言葉をリリーから貰おうってするだろう。(ごめんなさい、。言いにくいんだけど、今年はクリスマスジェームズと過ごすの。)(ひどいわリリー!イブはみんなで!じゃなかったの?)
 その時のことを思い出して、そう、リリーが行ってしまった後でジェームズの馬鹿阿呆眼鏡とののしる彼女を友達二人となだめて朝まで酒に付き合ったっけ、思えばあの頃から彼女は酒豪だった―って思い出してリーマスは優しく苦笑した。手持ちのワインは2本だけれど足りるかなってちょっと不安になる。

 おしゃべりな街頭の角を曲がって、黒猫の鍵尻尾がそっぽを向く方向に103歩進めばそこが彼女の住まいだ。ちっさな煉瓦つくりのアパートの階段を、彼は慣れた様子でトントンと登ってゆく。
 そうして迷いもしないで、緑色の似たようなドアの中のひとつの前に立った。扉には白い小さな花のドライフラワーで作られたリースが飾られている。去年の花。
 ベルを押そうとする指先が少し止まって、リーマスはこっそり鼻を鳴らす。
 おや、いい匂いがするな。チキンとスープ、それから?
「チョコレートケーキ。」
 小さく呟いてにっこりすると、彼はベルを押した。リンロンロン、って音が聞こえて、はーい、って声がする。ドアが開く前に少しコートの襟元を正して、それからリーマスはプレゼントの大きな包みを抱えなおし、バスケットを持ち上げた。バスケットには溢れそうなカスミソウ。パンとワインだけじゃああんまり貧相だろ?って言う言い訳は、ずいぶん前から使わせてもらっている。
「いらっしゃい、リーマス!」
 ってドアが開く。にっこり笑ってリーマスも口を開いた。
「メリークリスマスイブ、。」






















8.野原の花束(つみてはゆかん)(戦国BASARA/蘭丸)

 戦も終わって一段落だ。はふう、と息を吐いて伸びをした。
 しとしととほんとうにわずか、絹糸のような春雨が光の中降り注いでいる。天気雨だ。魔王軍の勝ち戦の後に、なんと清清しいことか。は苦笑し、もう一度背伸びをする。窮屈な鎧はいつでも肩が凝る。かと言って濃姫のようにあんな軽装で戦場に出るほど、は自らの能力に自身はない。(いや、普通に死にますって濃姫さま!)青空に向かって、複雑な思いを飛ばしていた時だ。
 おおい、とどこかで彼女を呼ぶ、まだ高い少年の声がした。
ー!!!」
 坂を飛ぶような見の軽さで走ってくる少年は蘭丸だ。本当に羽でも生えているかのよう。彼の射る矢のように、まっすぐこちらへ飛んでくる。
 そのまだ幼いといっていいほどに若く、生き生きといのちに溢れた少年に、は思わず目を細める。ちいさな体いっぱいに息をして笑って怒っていっしょうけんめいな男の子。膝小僧の橙がかった桃色がいとしい。
「蘭丸くん、」
「バッカヤロー!お前探しただろ!手間掛けさせんなよな!」
 蘭丸はお前と違って忙しいんだ下っ端!と蘭丸がの前で腕を組む。開口一番に馬鹿野郎ときたものだ。蘭丸の口の悪さは相変わらずで、見上げてくる少年の細かい雨が雪のように小さな小さな球になり連なる睫に微笑をこぼしながら、はそりゃあごめん、ととりあえず謝っておく。そうでなければ後がこじれる。その辺り、年齢の通りは大人だ。蘭丸よりずいぶん高い背で彼を見下ろす。
「何か用?」
 それに蘭丸は、ニヘ、と顔中に笑みを浮かべた。得意げな笑み。信長様に褒められたときとおんなじかおだ、そう思っては首を傾げる。その瞬間、ズイと何かが差し出された。
「やるよ!きれいだったからな!わざわざ蘭丸が摘んできてやったんだぞ!感謝しろ!」
 そう言う蘭丸の手にあるのはたんぽぽに菫、螺子花に蓮華と言った春の野の花ばかり。それらを片手にぎゅっと握り締めて、蘭丸が差し出している。
「おお、ありがとうー!」
 ああ今からこんなんじゃあ将来は大層モテて女泣かせになるだろうなあ、だなんてのんびり未来に思いをはせ始めたの隣では、蘭丸がなにやらブツブツ不満げに呟いている。おっかしいなー、畜生やっぱり光秀のやつ嘘教えやがったな、花を差し上げればその方のお心も動きますよ、だなんて言いやがって、でも濃姫さまも隣で頷いてたしなー。少年の悩みは絶えないようである。
 もちろんその話しが、彼の敬愛する主君の酒の席で大いにネタにされていたことは黙ってやるべきである。


















9.白百合の花束について(君がため)(戦国BASARA/明智光秀)

 普通の城というものは、おそらく城主が帰ってくればいっせいに騒がしくにぎやかになるものなのだろう。だが違う。この城は違う。この城の主は冷酷にして無邪気な狂気の君。彼が帰れば城はぴんと緊張に張り詰め息を潜める。
!」
 彼の歌うような調子の穏やかで楽しそうな声と共に聞こえる廊下をゆったりと走る音。
「光秀様、せめてお着替えを!」そんな声は聞こえない。「廊下がよごれまする!」そんな声聞こえるはずもない。帰ったばかりでしかも特別気分のいい彼に、そんな小言をいう勇気のあるものなどいるだろうか。その問いは不毛だ。まるで意味がない。
 戦場から帰った彼の跡には、たいていこうして赤い道が出来上がる。彼の機嫌が良いほど、その率は高い。
 この城を見よ。完璧な左右対称、そして庭のこの造形美。それらは美しく磨かれ、手入れも行き届き、枯山水とはこういうものだ、整備された死の匂い、その美しさ。
 それらを命じるように、美しいものを好く彼にも、ひとつひとつ完璧なまでの造形美を保つこの城を、血で汚すというその許しがたき動作を侵させる喜ばしいできごと。それが戦場にあるのだ、彼の場合。そしてそれを誰も咎めるはずがない。彼はこの城の主。たったひとりの王。邪神も恐れぬ清らかなその醜悪。
 すぐ外の廊下が軋む音に、は身を固くした。
 彼の人が来る。
「おお、!ここでしたか。」
「―光秀様。」
 障子がすうっと開かれて、その美しい人が立っていた。その顔には優しくしか見えない微笑、その内面を知らぬものが見れば、菩薩のようだとでも称したのかもしれない。しかしその姿はどうだ。ほとんど頭の先からつま先までずぶ濡れだ。真っ赤な血。それを被ってなおこの男は美しく微笑むのだ。寒気がする。
「どうなさったのですか、お着替えもなさらずに。」
 もまた微笑みを保ち続ける。美しいと光秀が常日頃日毎夜毎に絶賛するその微笑。幼い頃からそれは彼の、彼だけのものであったのだ。正確に言えば、幼い頃、誰のものでもなかったそれに、焦がれ焦がれたこの主は、自らたけのものにしてしまった。二人は乳兄妹であったのだ。

「ああ、すみません畳が汚れてしまいました。後で換えさせましょう…しかし、ああ、これを見てください!あなたに差し上げようと思って走ってきたのですよ!」
 うっとりと彼が血濡れの指で差し出したのは、暗い部屋に驚くほど白い百合であった。その花弁だけは真っ白に穢れることなく、光秀の触れた茎と葉には、赤黒いものがこびりついている。まあ、と言っては、少し震える指でそれを受け取った。豪奢な着物から覘くほっそりとした手首に光秀がうっとりとしているのを知りもしない。その指先が冷たくこわばっているのにもちろん彼が気づいて、それにもまた溜まらずに微笑みをもらしていることも。
「どうです?美しいでしょう?戦場で見つけたときあなたを思い出したので、すぐに持って帰って見せてさしあげようと思い立ったのですよ。」
 そのためいささか乱暴に戦を終わらせてきてしまいました。フ フ フ、と喉の奥で笑う彼に、はなんとかありがとうございます、と震えそうになる喉で言った。茎を握り締める手のひらが痛い。

「あなたにとても良くお似合いです。」
 美しい口端を持ち上げて光秀が微笑む。その銀の髪。は恐ろしくて怖ろしくて微笑んだままでいる。残酷な城の銀の神、その捉えるもの。












10.光と影の花について(奉教人の、)(GH/ジョン)

 教会の薔薇窓がとても綺麗。キラキラキラキラと、七色の光とマリヤ様の微笑を落としている。女は行儀良く並んだ椅子の最後尾に深くもたれて息を吐いた。最前列では子供達が座って熱心に、絵本の読み聞かせに夢中になっている。その頬のばら色。
 女はもう一度息を吐く。白い息が、丸天井の上へ上へ、雲のように昇っていく。何年も何年も、人々の祈りたとか願いだとかが染み付いたその天井。優しく汚れた白。
さん。」
 そおっと朗読を邪魔しないように、彼女を呼ぶ声に振り返った。七色の影と光の中に男が立っている。金の髪、青い目。人形のようだ。あどけない少年のような顔立ちをしているが、その服装は立派な司祭服だった。厳かな黒はおどろくほど彼にしっくりと馴染んだ。
「ああ、ジョン。」
「今日はおつかれさんどした。えらいすみません、さんにまで手伝わせてしもて。」
 眉を下げながら申し訳なさそうに誤る彼に、女はいいえいいえ、と体を起こして首を振った。彼とは対照的な黒い髪がサラサラと揺れた。天使のような男の口から、日本の、しかも関西、果ては京都の言葉が出てくるギャップはきっと傍目から見ればたまらなくおかしい。女も最初はそれで大笑いした口なのだけれど、今となってはそのギャップすらいとしい。
「いいよ、楽しかったし。」
「そうですか?」
「ほんと。また呼んでよ、手伝うから。」
 そう笑って頼もしそうに腕をまくると、男はおかしそうに笑った。
「はい、ほなまた人手が足りひん時はお願いさせてもらいますー。」
「まかせろ!」
 あはは、と和やかに静かに、二人はひとしきり笑う。
「さよーなら!」
 元気の良い声が天井にうわんと響いて、二人は最前列に眼をやる。磔刑に処された男の草臥れて穏やかな顔立ちとその十字。その下に集う子供達の背中には天使の羽だ。最前列から光のように飛び出していく。
「司祭さまさようなら!」
「おねえさんさようなら!」
 はい、さようなら、と手を振りながら子供たちを見送る。
「ねえ、おねえさんまた今度もくる?」
「どうかな、わかんないなー。」
「えええー来てよぅ。」
「そうだよおもしろかったもん。」
 あーこらこら困らはりますよ、と控えめにたしなめる男に、彼女はニ、と笑ってみせる。
「じゃあまた来るよ!」
 その言葉に子供達の頬が輝く。幼子達。その笑みが教会の中に咲き立つようだった。
「約束?」
「うん。約束。」
「嘘ついたらいえすさまに怒られるよ!」
「わかったわかった。」
 ほら帰りなさい、って笑って背中を押し出すと、嬉しそうに子供達は駆けていった。じゃあねえーおねえさん!そんな言葉がこだまして、女はにっこりと笑う。

さん、よかったんですか?」
 おずおず、と言った調子で尋ねた男に彼女が笑って頷く。もちろん、その言葉に彼はほっとしたように目尻を下げた。その様子は先の子供達にそっくりで、彼女がこっそり微笑んだのを彼は知らない。
「でもほんまにさんが来てくれはって助かりました、ピアノ弾かはるんですねぇ。」
「いや、ほら私一応アレだよ?ぼーさんのバンドのエレクトーンだからね?ジョンわかってる?いちおープロなのよ?」
 そういえばそうでした、とはにかむ男にはやれやれとため息を吐く。どうにも彼女のバンドは、ベースとエレクトーンの副業のせいで忘れられがちなのだった。彼女にとってはとても不本意なことではあるが。突然風邪でダウンした教会の伴奏役のピンチヒッターに、彼が彼女のことを思い出したのがほぼ奇跡に近い。
「でもよかった?聖歌ロックバージョンとかありだった?」
「子供が馴染めて楽しければなんでもええんです。」
 意外と大雑把というか大様だ。でも一応僕がいてるときだけにしといて下さいね、怒られるかもわかりませんから。そう言う男に、やっぱりNGなんじゃん?と女が微妙な顔をする。
「僕こう見えてストーンズとか好きなんです。」
「渋い!」
二人の足元に薔薇窓の光と影。

ジョンがストーンズとか聞いてるそのギャップがいいかなと思った。カッとなってついやった。