「ここァ花だ。」
銀時の言葉に高杉を阿呆か、と一笑で叩き落とした。叩かれた言葉はベシャリと潰れてそこらへんの冷たいコンクリの上に転がる。
「阿呆か、違う、花はこの真下だ。この建物が邪魔なんだ。違うのかァ?銀時。」
高杉がわらう。お前には届かなかったんだろうか、の願いが。
「俺は、邪魔な、これを、取っ払う。」
墓参りもできやしねぇ。高杉はなおわらう。
それに対して、桂と顔を見合わせると銀時は少しわらった。(ばーか。)
「ばーか!お前、ここは花なんだっつってんだろうが。」
そうとも、ここは。桂が背中でうっすらわらったのを知っている。この花の光を坂本が空の巡りの目当てにしていることを知っている。
ここは花だ。昔ここに花が咲いていた。天を指して死ぬな生きろ殺すな生かせとわらった花が。
お前は忘れたのか?見えなかったのか?気づかなかったのか?
あの人差し指が指し示していた先が。その花の向こう、あの雲を裂いた光の先が。
高杉はもうずっと停滞している。止まったまま深く暗く澱んでいる。
銀時はニヤリと笑った。ちゃんばらごっこはもう卒業したので、後輩指導でも始めてやろうか、そんな風にえらそうなことを考えて、馬鹿ヾし、と自らその考えを一蹴する。自分はそんな大層な人間ではないのだ、そんな賢そうなことは背中の桂に任せるべきだ。銀時は笑った。
「いつでもどこでも江戸中から見えて、おまけに水も替えなくていいし、毎日花換えにこなくてもいい、こんな楽な花が他にあっかよ。」
高杉がぐにゃりと顔をゆがめる。神経質な奴だ、根本的に変わっていない部分に銀時はニヤニヤと笑った。それに桂が、ため息を吐く。
(そうだった、昔っからこいつは高杉を怒らせるのが得意だった。)
あーああ、俺だって色々と忙しいんだがな、なんて小さくひとりごちて、小さく笑ってみる。仲裁役兼ブレーキ役は、いつだって彼だったのだ。今度だって、それは必要だ。
「いい加減にしろ。」
その言葉にふたりが、あァ?と振り返る。変なところで、やっぱり仲がいいのだ。
「やるなら外でやれ。」
ここは花、なんだろう?そう言うと、その通り!と銀時が笑う。ほら、もう高杉君たらこんなに壊しちゃってぇ!修理幾らかかると思ってんのォ!銀時がわざとらしく叫ぶ。
高杉の苦虫を噛み潰したような、お前らは馬鹿か、というような変てこな顔。そんなところは変わらなくて桂も銀時も、思わずくっと笑ってしまった。
(さあ花を守らなくちゃ!だってここは。)
君は花のような
20070430/