真っ青なビニル傘をくるりくるりと回転させて、水溜まりをいっこいっこ、丁寧に踏みつぶしながら、は歩いてきた。
沖田は縁側に座ってたわわに咲いて鞠みたいな紫陽花の垣根越しに、じっとその青いビニル傘が近付いてくる様を眺めてた。
もっと高い傘買ってやる、といつだったっけ、沖田はそう言ったのだけど、は頑としてその300円ぽっちの傘がいいと聞かなかった。なんでだイと沖田が訊いたら、青い透明なビニル、透かしたらどんな曇天も青空になるでしょうってはわらった。ひねくれ屋の沖田だから、今度はそんなに晴れが好きかイって訊いたら、はわらって、雨空が良い気分の時は、青い透明なビニル透かしてまるで海の中にいるみたいな気分になるのって言った。
わからねェや、って沖田が言うと、海に雨が降るのってそれだけだけどなんだか良い眺めなんだけど、それを海の中から眺めたらきっともっと良い景色だと思うの、って沖田にはよくわからないことをは言うばかりだった。
ただがその青くて安っぽい透明なビニル傘を気に入っているのはわかったので、沖田はそういうもんかねィとだけわらった。
もうほとんど千切れて離れ離れの雲から降る雨は、細かく柔い。糸のような、とよく称される雨の滴を集めて、のビニル傘はきらきらと光った。
沖田はが水溜まりの景色をひとつひとつ律儀に潰して歪めて波紋を広げるのをじれったいような待ち遠しいような気分で眺めてる。雨上がりを待つようなそんな気分だ。
彼が座っている縁側にも、時折風に千切れ飛んで雨粒が入ってくる。霧吹きでしゅっとするより淡い水滴は、沖田のくすんだ金の髪にじんわりと触れてすぐ溶けてしまう。雨樋からは雨粒が規則的なリズムで落ちてくる。雨音はやわらかい布を一枚被せるような具合に、聴覚をやんわり
ミルク色に煙らせる。
タン、タン、タン、というそのリズムは、秒針に似て、でもそれよりずっと聞き心地がうれしい。
傘が近付くにつれて、雨音に混じって歌が聞こえてきた。 歌詞のないその歌は透明な色をしている、と沖田は思う。
すきとおった歌。
俺ァこの歌はきらいじゃねぇや、そう考えて、を迎えるために沖田は立ち上がった。
見上げた先に虹を見つけて、「、後ろ見てみなせェ!」
振り返ったが歓声をあげる。
燕がさっと横切った。雨が終わる。光を集めて虹になる。
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