「本当に行っちまうんですかィ?」
総悟が呟いた。その目は静かに制止している。それに対しては、昔と変わらずに顔中いっぱいに笑うだけだった。
「もちろん。」
その顔には今日の空と同じで一点の曇りも無い。
彼女は旅をあいしている。

「…。」
総悟は不機嫌な顔で黙った。
その拗ねた子供のような顔には余計笑ってしまう。幾つになっても変わらない、この小さな少年は。
「何、子供みたいな顔してるの。」
「…あんたは次一体いつ帰ってくるんでしょうねエ?」
奇妙に歪んだままの顔で総悟は吐 き捨てる。苦々しげな色をした感情がドロドロと渦巻いているのが見えるようだった。
「さあ、いつ何時かしら。」
歌うようには笑う。それがさらに総悟の焦燥感を煽り、苛つかせるのだ。

「笑ってんじゃねぇや。」
総悟は言う。は彼の、きれいな眉間に寄ったしわを無意識に眺めていた。

「いや、そのお、なんというか…ごめん。」
「謝ってんじゃねエよ。」
ますます憮然とした表情で総悟は言う。

「…。」
冷ややかな沈黙が辺りを支配する。


「…また帰ってくるから。」
ね?とが子供をあやすような口調で小さく笑いながら総悟を見る。
その少し困ったような笑みが総悟は昔から嫌いだった。自分を窘め諭し宥めて置いてゆく時に彼女が必ず浮かべる笑みだからだ。それを見る度彼女が自分をガキとしか見ていないのだと思い知らされる。
ああ、今ここで土方さんが行くなとあんたを抱きしめたら、あんたは行くのをやめるかな。

「いつですかィ?十年?二十 年?」
「さあ。それは私にも誰にもわからない。」
は屈託なく笑う。総悟はもう黙ってふいと庭先に目を移した。何もかもが輝く6月だ。ああだからこそ。総悟はギリリと奥歯を噛む。ああなにもかもが気に入らない。


魔女旅に出る