悲鳴もあげず、それどころかうっすらとほほ笑んでいるようにさえ見える表情で静かに静かに崩れ落ちた人の映像を目蓋の裏で何度も繰り返しながら沖田はぼんやりと思った。
いいんだ。これでいいんだ。
納得させるように薄くほほ笑みながら繰り返す。
だってこれですべて終わったんだ。もうあの人が悲しむことも嘆くこともないんだから。
手のひらを強く握り締めたまま、ぶつぶつと沖田は呟く。
これでいいんだ。悲しみはもう終わったんだから。もう絶対にあの人が悲しむことはなくて、あの人が笑わないのは死んでしまったからで悲しいからではないんだから。
だから、と沖田は顔を上げる。
「これでよかったんでさぁ。」
低く唸るようにはっきりと声に出して言ってみる。なぜだか泣きそうだった。しかし悲しいのではない。決して、悲しいのではない。ただもう彼女をこれからずっと置き去りにしてしまうのだという事実だけが沖田の心臓の真ん中あたりを内からじんわりと抉るのだ。
年月が流れて、振り返った時、彼女がもう見えなくなっていたら?
これは悲しみではない。迷子になった子供が、もう永遠に親とは会えないのではないかと怯えるような、細やかな絶望を含んだ恐怖だ。置いてゆくものが、誰しも抱く恐怖だ。置き去りにしたまま、あまりに遠く離れてしまうことを沖田は酷く恐れている。
馬鹿馬鹿しいったらありゃしねぇや。
染のように胸の真ん中滲みだしたその感情を嗤い飛ばすことができなくて、沖田の顔が奇妙に歪む。初めて人を斬った時、自分はこんなにも怯えただろうか。
酷く寒くて寒くて沖田は腕を擦る。
馬鹿げた質問ばかりが彼の頭から溢れ出している。夕暮れの茜色が嫌に鮮やかに目に沁みて、沖田は強く、目蓋を塞いだ。
悲しみは終わったんだ。それでいいじゃねぇか。なのに痛みが消えない。ああ、どうして。

さよならの
合図を

20070415