その女が話したのは、どこか余所の遊女が嫉妬に狂い、侍5人を切り殺して死んだという話だった。
素直で一途な、可愛い子やったのにねえ、と詰まらなさそうに言った女の白い首筋は変わることなく細く美しく、それはまるでなにか魔力でもつかったかのようだとふと思い、俺は怖ろしくなる。
「怖ぇもんだな、女ってのは。」
ごまかすように吐き出した煙草の煙はゆらりゆらりと天井へ昇ってゆく。ああこの天井。なにからなにまで見てきただろう天上だ。忌々しい。
「あら、いやや。土方はんが怖いやなんて。」
コロコロと鈴のように笑う女は怖ろしい。ああ怖ろしい。真っ赤にひいた口紅の、その朱も全て作り物。豪奢な着物から覗く細い指。それに隠れた細い細い白い体。
「…怖いもんくらい誰にでもあんだろうが。」
「鬼の副長さんにも?」
あらあらあら、と無邪気に目を丸くして女は笑う。
「えらいこと聞いてしもたわ。」
女は笑う。煙が消えてゆく。
「ねえ、ほな土方はんは、うちが怖い?」
ゆっくり微笑むその口端。もちろんのこと。ああ怖ろしい怖ろしい。


わるい
おんな

#2








20071009