「銀さん昔はえらいやんちゃしてたやらしいやないの?」
女が笑った。行燈に火を点けようと、翳された薄い手のひらには光が透けて、ひどくとてもなまめかしかった。ゴロリと体を反転させて、女に背を向ける。女の気配は酷く薄くて、聞こえてくるのはサラサラという衣擦れの音ぐらい。背中に女は果たして本当にいるものだろうか。なぜだか振り返ることはできない。
「お前、男はみんなやんちゃなんだよコノヤロー、どこで聞きやがったんだ?オイ。」
それに女は、おかしそうにふふふと笑った。
「なんやこの間もえらいことしでかしたんやって?幕府のお偉いさんが怒ってはったわ。どこのどいつか知らへんけどあの銀髪侍絶対どついたるー、言うて。」
うげえ勘弁、とわざとらしく声に出すと、女はますますおもしろそうに笑った。その口でこいつは、明日そのお偉いさんとやらに、銀髪のお侍さん、うげえ勘弁、言うてはったで、と言うのだろうか。のっそり起き上がりながら、女に腕を伸ばす。
「お偉いさんなんてクソ食らえだチクショー。」
もたれかかりながら女がくすくすと笑う。腕の中に閉じ込めてみると、見た通りに女は細く、そして酷く軽い。
「これ、内緒な?」
それに女がまた笑う。
「当たり前よ?ほんまは他のお客さんのこと話したらあかんのやもの。」
でも銀さんは特別、ね?とうっとりするような笑顔で悪戯っぽく言う女の、さあ俺は果たして一体今日何人目の特別やら。(知ーらない、知ーらない。)そう決め込んで女の頭に顎を乗せる。なにせまったく知れたものではないのだ。
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