わるいおんな
#6
「桂はん好き。」
女が言う。なんとまあ赤い唇。無表情のまま、男は黙っている。その唇、悩ましい紅色は嘘吐きの色。
「好き。好きよ。」
歌うような調子、その伏せた薄い目蓋の下の目玉。宝石の目玉は嘘吐きだ。
そのしなやかな指先が、男の髪を一房取った。噫なんて憎いのかしら、こんな綺麗な綺麗な髪の毛。女がそう言ってそれを引っ張る。
「…嘘吐きめ。」
長い髪を垂らし首を傾げて、男がクッと喉の奥で笑った。それに女は、楽しそうに「あら いやや、うちほんまのことしか言うてへんのに。」っとそっぽを向いた。そのツンと尖らせた唇。横顔のライン。睫のカーブの造形美。
「嘘を吐くのはこの口か?」
男が笑う。掴んだ頬は何色だ?この紅をなんと言う。
「塞いでやろうか、」
それこそ望むところ、女が遠くで哂う。


20080512