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#7


いつもフラリと、間を空けて思いついた時にやってくる高杉に、女は眉をしかめた。
「高杉はんなんで今日来はるのん。」
その口調はなんだか粗相をした弟を咎めるような口調で、彼は思わず目を見開いた。もちろん、傍目には、その表情に変化は見えない。
「今日はとぉっても!お金持ちのお客さん来てはったのに。」
実際その"お客さん"のお相手をしていた女を、呼びつけたのは彼だ。番頭だって店の主だって、彼が怖いものだから。だのにこの女、さっきから不機嫌極まりない顔で、彼に勺をしているのである。
「そりゃ邪魔したなァ?」
片目がいやらしく細められても、その鋭さにも女はびくともしない。ほんまに邪魔、そう言ってのける。おいおい、と低い声で笑った彼に、女はムッとむくれて見せた。真っ赤な爪先が、高杉の襟を強引に引っ張る。
「お邪魔虫さん、邪魔した分ちゃぁんと遊んでくれへんとやあよ?」
気だるげな返事をしながらそのまま倒れこんだ高杉の、上で微笑むその女!(噫まったくその怖いもの知らずときたら!)



20080512