#9
ああこれはピンチ、ピンチというやつなのだきっと。志村新八。齢16。男の危機、である。ピンチと書いてチャンスと読むの☆というパー子さんの言葉は忘れようと思う。ピンチでないなら試練だ。男の試練である。
「新八くん、って言うの?」
いややわぁかわいいー!そうキャッキャと少女のようにはしゃぐ目の前の、青少年の健全な育成にはいささか悪影響なお姉さまをどうにかせねばなるまい。しかしそもそもなぜこんなことになったのか。高級遊郭などそもそも入れる場所じゃない。場所じゃないのになぜいるのか。それがわかれば苦労はないよ騙すつもりが騙されていつの間にやら無料働きーすぃーすぃーすぃーだらだったーすらすらすいすいすいーとこりゃ!頭の中はぐるぐる回って、盆踊りなんかが始まりそうだ。いけない僕にはお通ちゃんがあああああ、あ、だーれがこっろしーたくっくろーびん!高速変化自前の百面相を披露し続ける新八を見やってますます女が笑みを深くする。うっとりするような笑みの作り方に、彼はうっとつまった。
「新八くん、隙あり!」
「あっ、めっ、めがね!眼鏡返してください!」
「いーや。あら、度キツいわぁクラクラする。」
自分の眼鏡をかけてうふふと笑うその人。目ぇ悪いのね、と微笑みながらぐんと顔を近づけてくるその人。ぼんやりした視界の中に、その目玉が映る。
「わ、わ」
「んふ、かーわい。」
薄い手のひらが肩にそっと重ねられた。指先がつぅっと胸の真ん中辺りを服越しに滑っていって、あ、あ、なんだかいけない気分になりそうな。噫銀さん早く帰ってきてください、なんて。嘘ついちゃいかんよ、青少年?


20080512