真っ白に煙った世界に真っ青な雨がぽつり、ぽつり。霧の中まるで宝石の液体があるならこんなかんじ、青い雨が降る。
手のひらでうけるとすきとおってつめたい。こんな青をどこかで見た。
「…あめ、」
ふと目を開けると、青い空。続いて高架下のみんなの顔、顔、顔。
雨かと思ったのは涙だったようだ。みんな泣いてる。顔をぐしゃぐしゃにして。
シスターが珍しく、動揺を顔いっぱいに私を覗き込んでいた。いやだなまさか核が降ってきたわけじゃないでしょうに。なんだかすっかり青ざめて、なにかとても怖いものに出会ったみたい。
青い空には雲。真っ白な世界を思い出す。霧がたくさん。白い世界。
ああそう言えばあそこには見たこともない生き物がいたっけか。雨だと言った私に、傘を差しかけた。あの生き物。地上では見たことがない。
「…あの世の使いにあったわ、シスター。」
「…ああ。」
低い声で、シスターが頷き。手に力を込めた。それでやっと自分はシスターに右手を握りしめられていたのだと気がつく。反対の手には……いやいやいや落ちつけ自分。……鮭?どうりで生臭い…、いや、深くは考えないでいようああいやだなピチピチはねてるよまた気ィ失いそう。どうせ村長の民間療法だ。療法?私なにかそんなことしてもらうような目にあったっけ?
左手から意識を離して、仰向けのまま空を見上げる。変だな、首が重くて動くのがこんなに辛いや。
私は高架下の鮮やかな緑の中に横たわっている。みんなが私を取り囲み覗きこんで泣いている。へんなの、みんな。いつにも増して変よ。私の体も変なの。重たくて重たくて動きもしない。
シスターの顔。傷があるね。青い目。空のいろだ。
白い世界に降る雨と同じいろ。
「…とってもきれいだった、」
あの世の使いにあったのよシスター。シスターの読む聖書に出てくる生き物より、きっとずっときれいで平凡だったの。くそ喰らえといって私、笑ってきてやった。
「…いいや。」
ゆっくりシスターが首を振る。視界がぼやけて白くなる。ああこの青をさいごまで持っていけたらよいのに。
(それはおぞましいものだお前を死へみちびく。眠ってはならない、本当に美しいのは、)
「きれいな目ね、そらのいろ、している………」
伸ばした左手でシスターの傷をなぞった。乾いた頬。魚くさくなるけれど許してよ。私はすこしほほえむ。
そうする内に、脳みそは段々空っぽになっていくわ。こんなんじゃ良い文句も浮かびやしない。
見上げたそらはまっさおでくさはらはみどり、かわはきょうもながれてる。噫ほらひこうきぐも。
(シスター)
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