その子供は、森の奥で妖精たちの手によって育てられました。妖精たちはみな女性の形をして、背中に透き通った虹色の羽を持ち、丈高く、そして現の夢幻の如く美しく、花の冠を頂く長い髪を地面に垂らし、白い神話風のドレスを風に靡かせ、その水晶のような瞳を青くきらめかせておりました。湖の畔、美しい緑柱石を敷き詰めたような森の中、その子供は慈しんで育てられたのです。 妖精たちに拾われた時、その子供は真っ白な敷布にくるまれ、金の揺り籠に抱かれて樹上から毀れる日光にひとりにこにこと微笑みを浮かべておりました。どこぞの高貴な身分であろうに、なぜこのような森の奥深くに置き去りにされたのか捨てられたのか、それとも忘れ去られたのでしょうか。人前に姿を見せぬ妖精たちではありましたが、その美しい赤子を一目見て、彼女たちはその心を動かされました。なんて小さくてかあいらしい、か弱い生き物でしょう。妖精たちはさらなる森の奥深く、彼女らの棲家へその赤子を連れ帰り、金の髪と竪琴を持つ王と白鳥の女王の元で子供を育てだしたのです。 「よいこ、よいこね。」 妖精たちはみな、その子供にすぐさま夢中になりました。 朝には緑の葉に溜まった甘い朝露を白い花びらで掬って小さな口に代わる代わる運んでやります。昼にはももいろの日光の欠片を、擂り潰したもぎたての木の実とよく混ぜて。夜には夜露の甘い甘露を、炉辺でよぉく煮溶かして与えました。かいがいしく美しい妖精の乙女たちが赤子の世話をする様子は、小鳩が雛の世話を焼く様子に少し似ています。 妖精たちの見立ての通りに、その子供はすくすくと健やかに美しく育ちました。内から光り輝くような、美貌のおのこでありました。 女王は子供に、棲家とたくさんの母親と姉たちと、それらの愛情と、それからいくつもの幸運を招く小さなおまじないと、うつくしい貌に相応しい名を与えました。 ディルムッド。 そのうつくしい子供は森の奥で、美しい妖精たちの手によって育てられたのです。 |