まぁるい―――まぁるい座だ。 彼はゆっくりゆっくりと内側へ向かって丸くなります。 ふわふわとしていて、指の先の感覚がありません。なんだか水の中に浮かんでいるような、眠りにつく直前のような、地に足のつかない心地です。うとうととまどろみながら、しかし彼には忘れることができません。 目を閉じる寸前に見た、真っ青な空、主の銀色の髪、そしてその目。その目です。 彼は閉じたままの目蓋をさらに強く閉じました。もはや目蓋など存在しないことを、どこかで知りながらそれでも見たくないものがあるというように。ぎゅっと膝を抱えて (抱えるべき膝などどこにもありません) 彼は丸くなります。丸く、もっと丸く。ちょうどいい形。もっとまるく。 主の空色の瞳。それは妖精たちの目と少し似ていました。養父であった年を取らず、若いままの妖精王と自らのほかに男を知らなかった彼にとって、自らの主は父とも祖父とも言える初めての存在でした。いつも明るく、快活で、公平で、思慮深い彼の主! 森から外へ出て、彼は自らの容姿がずいぶんと恵まれていることを知りました。そうして若い娘のみならず、世のご婦人方にとってその光り輝かんばかりの美貌がずいぶんと好ましく映ることも。もちろんそこに、妖精たちの"贈り物"の力が働いていることも彼は知っていました。別れのキスと共に送られた黒子が、特に強く作用していることも。 けれでもそれが、こんな結末を招くことになるなど彼は思いもしなかった。考えてもみなかったのです。 主の許嫁は彼に恋をして、そうして彼に敗れぬ誓いを迫りました。天が落ち、地が裂け、海が枯れ果ててなお破ること許されぬ永久のゲッシュを。それに是と答えたのは彼です。請われるままにその手を取って、追っ手を掻い潜り、時には騎士団で鍛えあった仲間と闘ってその手を血に染めてすらも。 その彼を主は許しました。 彼はこれまで以上に、主に誠心誠意仕えようと決意したのです。彼女と逃げた時ですら―――彼の心は主を裏切ってなどはいませんでした。けれども破れぬ誓いによって女との約束を反故にすることもできず、彼は煩悶しました。彼は苦しみました。彼は優しい子供でした。あまりにやさしく、請われて差しのべられた手を振りほどくことなどしたこともなかったのです。愛していたかは重要ではありません。彼を動かしたのは両の手に持った激情ではなく、望まぬ男との結婚を嘆く娘への憐憫でした。請われれば答え、そして彼は誓いを結んだ、けれども彼は死を選ぶことはなく、その手に槍を持ち、幾多数多の追っ手を殺したのです。それでも彼は許された。それは一重に、主の人柄あってこそ―――。 尊敬していました。 尊敬しているのです。 彼の主は真の騎士でした。立派な、誇り高く、公平な、心の広い主でした。 あの目。 彼はもはや存在しない喉で呻きます。 あの空色の目が、血に濡れて地面に倒れ伏した己を見ていた―――。あの冴え冴えとして、しかし燃え滾るような、奈落の底のようなあの目。ぽっかりと空虚な悲しみの奥底で、何か気味の悪い巨大なうねりがのた打ち回っていたあの目。 あのような恐ろしい瞳を、主にさせたのだ―――それだけの行いをしたのだという後悔が、いまさらに堰を切ったように彼の胸に訪れました。 違う、違うのです。 言い訳しようにももはや彼には口はなく。 主よ、違うのです、私は、私はあなたを裏切るつもりなどなかった、しかし女を裏切ることも、死を選ぶことも、私にはできなかった―――噫、主よ、許しを得たと思っていた、その私が甘かったのだ、どうしてあなたの心を深く深く傷つけたことに気づかず変わらず隣でのうのうと笑っていられたものだろう。 怨嗟の念は彼自身に向かいました。いつもいつまでもあなたの魂が健やかでありますように。そう微笑んだ妖精たちの声も、もはやここには遠すぎる。 彼の目が見ている。ずっとずっと見ている。 騎士は呻いて、もっともっと小さく丸くなります。 どうしてあの時、女の願いを振り払うだけの強さを持たなかったろう。どうしてあの時、逃げずに女の手を取ったまま、主の前で許しを請うことをしなかったろう。どうしてあの時、追ってきた友に槍を向けたろう。どうしてこの忠節を、最後まで主に捧げられなかったろう、どうして、どうして、あの時、あの瞬間、どうして―――すべてはわたしのよわさのためだ。 光り輝く黄金の楕円の中で、呻き、嘆くまるいちいさなそれでもなおうつくしい魂が、ひとつ。 |