細く先はぽってりと白を盛った花びら。千の花びら万の花びら。真っ白な菊が咲いている。
ぼきりと首を落とすように手折って、少しほほえむと彼はふたつ目の花に手を伸ばした。
「きれいですね。」
が縁側から言う。日本は少し顔を上げて、それから優しく目を細めた。
「ええ。」
頷いてまた目を下ろすと、再び手を動かす。白と黄色の菊、あわい紫の萩、真っ青な桔梗、月見草。日本の腕が秋の花でいっぱいになってゆく。薄のぎんがぎがと揺れる様子はなんだか海のよう。そしてなんだか儚げで、庭の小さな薄野を揺らす銀色の秋風に日本はさらわれてゆきそうなくらいうつくしかった。
「日本、日本。」
日本の儚いその様子に、思わずが縁側から身を乗り出して呼んだ。日本、君は。
「はい?」
日本が草花から目を上げてほほえむ。それはそれは年長者の笑み。ずっとずっと長い間、君は君のまま生きてきたのだろう。ずっと日本は名もそのままに、そっとここで生きていたのにね。
はなんと言えばいいのかわからなかった。
なんだか泣きたくなるくらいいとおしく、そして悲しくなるくらい切なかった。
「日本、」
「はい。」
「日本、疲れてはいない?」
「はい。」
「大丈夫?」
「もちろんですよ。」
「ほんとに?」
薄がぎんがぎがと揺れる。銀の穂が千切れて飛ぶ。白い菊の花びら。舟のように、風に流れてしまう。その先を見極めようと眇めた梟の目玉は。
日本、強く儚い君の。
「ええ。ほんとに。」
日本がほほえむ。腕いっぱいの秋の草。桔梗の滴はあわい緑。
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