双識はうっとりとしながら、こっそりわらった。
の目がすうっと眇められ、みるみる空気が冷えてゆく。背筋がびきびきと伸びるような、緊張感が漂う。
そう、彼はこの瞬間が堪らなく好きだった。
(さあほらもうすぐ。)
わくわくと、妹ができるのを待つような気持ちで、次を待つ。
の口端がゆったりと持ち上がり。唇が言葉を紡ぐために開かれる。家族を守る。そのためだけに。
「ここに宣言致します。」
冷ややかで深とした声。普段の穏やかな声とは違う。排斥者の声だ。同属意外を否定する。圧倒的強者の声。
その声が宣言する。相手の敗北を。相手の敗走を。相手の完敗を。完膚なきまでに、叩き潰すと宣言する。
(さあ!)
双識がこころの中でさっとタクトを振った。と、ぴったり同時。
「――零崎を、開始します。」
は言い切った。
途端張り詰める心地よい緊張感に双識はうっとりと目を細める。
たまらなく好きなのだ、この瞬間、が零崎として立つ瞬間が。
がニイと笑う。目をすうっと細くして。 その様子は光を眇目で眺めるのにも、闇に目を凝らすのにも、似ている。
その瞬間彼女は人ではなかった。
まっすぐに立つ冬の朝だ。
指先までひややかにすきとおって、そこから白光がこぼれて見えた。冷たく狭められた目玉は、相手の心臓、その先を見ている。
さあ敗北のときだ。
の手のひらで針が不気味に光る。
(さあ。)
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