「…どうしてさんは、」
「お姉さん。」
顔も上げずに彼女がほほえむ。
お姉さまでもおねえちゃんでも良いわよ?でもおねえたま、は遠慮しておくわ。
そんなオプションがつくあたり、やはり双識の対である。
「…どうしてお姉さんは、名前に"識"の字がつかないの?」
それにはきょとんとして、それから屈託なくわらった。
「ああ舞織ちゃん、…いいね。君のそういう屈託のない無邪気なとこ、好きよ。」
「…ありがとうございます。」
聞いちゃいけないことだったのかな、少し気まずい思いをした舞織に、は刺繍をしていた手を止めて、優しげに目を向けた。
「教えて欲しい?」
暗闇のなかその目がひかる。細やかな白い肌が闇に浮かび、唇がニタリと弧を描く。この人はいささか幽霊じみて美しすぎる。
思わず身をわずかにひいた舞織にがほほえむ。姉に相応しい優しい優しい微笑だ。
「別にね、識がつかなきゃいけない決まりなんてないのよ?舞織ちゃんだって織でしょう?」
確かにそうだ。
「でも右半分はみんなおそろいなのになあ、って思って。」
部首だとかそういった言葉が浮かばなくて、そう言った舞織にがくつくつと笑った。姉、ということばにぴったりの、優しくてそれから大人びた笑み。
「そうね、確かにみんなお揃いね。」
彼女が笑う。
私がお揃いじゃないのはねえ、そう言う声音はなんとも歎美。
「…私が零崎を大好きで―――」
囁くような密やかな声音は、背徳を含んでなんて甘美な響きになるのだろう。ゾクゾクする。思わず舞織は腕をさすった。
女の兄弟ができてとっても嬉しいわ、仲良くしましょうね、舞織ちゃん。いつかそうにっこり微笑んだこの人。
「いいえ、とてもとても愛という言葉すら叶わないほどに愛していて、」
その美しすぎた唇の形。それは月のよう。
「とてもとても、愛すらも叶わないほど、大嫌いで憎いからよ。」
愛してるわ。みんなみんなね。
彼女が哂う。
「それでも私は、零崎。零崎のよ。ずっと、ずぅっと。」
それはまだ、彼女には、わからない愛の話。
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