改札を降りる。小さな町はにぎやかで、でもなぜだろうか、なんとなく虚ろに見える。
そんなわけないのに。
駅前の公園を、小学生くらいの男の子たちが笑いながら駆けていく。残り少ない夏を惜しむことも忘れて、その小さな体いっぱいに夏を満たして笑っている。なんとなく目が放せなくて、ぼんやりと見送った。
美鶴くんはちらと見やっただけで気に留める様子もなく歩き始める。
「…。」
彼は何も言わない。
その後を追って私も歩き出す。
なんとなく見上げた空は少し湿っていて、雨が振るかもしれない、ぼんやりとそう思う。


*


「ここ?…お化けビルってかんじではない、よね。」
確かにそうだった。白い外壁のビルは比較的真新しくピカピカとしていた。一階に入った花屋からは、夏の花が色とりどりにこぼれている。学生用のアパートかなにかになっているのだろうか。かわいらしいデザインの真っ赤な自転車が前に止まっている。
こじんまりとしてしあわせそうな、建物だった。

「…ね、どうしようか美鶴くん。」

美鶴くんは答えない。
それどころかアパート、元お化けビル、に目を向けてもいない。
じっとどこかを、見ている。


「…美鶴くん?」

鈍色の空。吹く風が湿っていて少し肌に重い。
ポツ、と鼻先に小さく雨が当たった。




13.真っ白な箱の中