「ミツル!!!」
(え、)
美鶴くんを追いかけて駆け出そうとするけれど、思いの外強く押されて地面に尻餅をついた私を見てはっと彼は足を止める。
「大丈夫、ですかっ?」
ひとなつこそうな、紺色の丸い目が私を覗き込んだ。ごく自然に右手が差し出される。
少しびっくりして、きょとんとしたら、ぱっと今気づいたといった具合にその子は顔を赤くして手をひっこめようとわたわたした。
「いや!あの!俺!ちがうんですってなにがちがうんだ俺!」
(…かっわいいの。)
おかしくなって少し笑ったら、その人は照れたみたいに肩を竦めて少し頭を掻いた。
「大丈夫です、ありがとう。」
笑いながらその手を取ると、男の子は照れた顔をふにゃと崩して私をぐいとひっぱりあげた。立ち上がって砂を払う。
「…美鶴くん。」
どうしたって言うんだろう、どこにも見あたらない。あの芦川って呼ばれた瞬間の、絶望しきったその顔。見ているこちらがはっとするような悲しみ。
「芦川を知ってるんですか!」
隣の彼が、必死な顔で私の肩をつ掴んだ。
その顔はさっきまでとは違う。真剣で必死で、なにか縋るような、深刻な表情だ。でも私はわずかにその中に希望のようなものを見た。彼はなにか、なにかを期待しているのだ。
(…なにを?)
私はなんだか空恐ろしいような心地がしてた。
心臓が早駆けをしている。なにかが変わるのだ、変わってしまう。そういう予感がする。
なぜだか少しだけ声が震えた。
「…あなたこそ美鶴くんを知って?」
「じゃあやっぱり!今の子はミツルなんだ!芦川!芦川美鶴!?」
圧倒されて頷くと、彼は泣きそうな顔でぐるりと周りを振り返った。
「ミツル!」
道行く人がぎょっとして私たちを見る。
私は彼が違うニュアンスで美鶴くんを呼ぶことに気がついた。
(…あなたは誰?)
「ミツル!どこ行ったんだ!なあ!ミツル!!」
美鶴くんは現れない。走って一体どこまで行ってしまったんだろう。あっちからもこっちからも、呼ばれているように彼はぐるぐるあたりを振り返る。何事か、と見る人々の目も、もはや私にも彼にも気にならなかった。
「…あなたは誰?」
彼が振り返る。泣き出しそうな、でもほっとしている、優しい笑顔。
15.それから行方もしれません