布団の中はなんでこんなにもものを考えるのに適してるんだろうか。俺はじいっと丸くなって考えている。
 ほしがってもいいんだよ。
 その声がずっとこだましている。
 俺の欲しい、もの。欲しかったもの。きっとそれをさんは知っているんだった。
(俺の欲しいもの…?)
 そんなの決まってる。あや。あの小さな子。あの子の人生が欲しい。失われたあやの、ずっと続くはずだった命。
(…でも、)
 本当にそうなのかな。そう考えると、少し自信がなくなる。
 あの時。
 体の向きをかえると右側の暗闇を見つめ直す。そうしてあの時を思い出す。
 あの、瞬間。俺の死んだ、(はずの)、あの直前の、一瞬。
 空から降ってきた、あの優しい桜色した光。あの子の好きな色。
(…あや。)
 あの時俺は本当に欲しかったものを掴んだはずだったのだ。でもそれは、確かに捕まえたはずのそれは、果たして本当にあやだったんだろうか。あやとは違うなにかを、俺は掴んで、そして安堵したのかもしれなかった。
 心の隅で、誰かがつぶやく。
(お前の本当の、望みはなんなのだ?なんだったのだ?)
 低いような遠いような、その声を聞くうちにだんだんと眠りそうになってきた。意識が飛び飛びに途切れる。ああ眠ってしまうんだな、もたつく思考でそう考える。。眠りに落ちる瞬間は、嫌いではない。布団の中のあたたかい暗闇がトロリと人を包み込むそんなかんじ。
 眠ってしまえば今日もすぐ過去。そうして俺は、どんどんあやを置いてゆく。
 でも眠りを嫌うことはできない。悪夢は目覚めている間にこそ訪れる。だからそんなもの、見ないほどに夜の眠りは深い深いところへ沈む。夢もみない分光も見ない。ただただ眠る。噫そうだ、頭のどこかで祈ってる。このまま眠って眠って眠って思考も全て眠りの泥の中、そのまま目覚めなければいいのにって。
(お兄ちゃん、)
 あの時見た幻が一瞬通り過ぎた。真夏の入道雲。青い空。
(あ、)
 俺の家。
 だから起きているのが嫌なんだ。眠りに落ちる間際にまでこんな夢を見る。
(…俺の家。)
 そればっかりあたまの中をぐるぐる回った。俺の家、あや、俺の家、あや、俺の家、俺の、俺の、俺の…。


26.遠くの町へ行くのかい



20080229/